ジーンズ刺繍事件
ジーンズ刺繍事件
裁判所の判断(混同についての部分)
ジーンズという商品において、需要者がその出所や種類 を区別する指標は、紙ラベルやパッチに記載された文字ではなく、バックポケット に施されたステッチであり、ステッチが類似する場合、需要者は、それらの商品が 同一人又は関連する者によって製造販売されていると認識するものである。そして、原告標章1、2と被告標章1、2、3、4及び原告標章2-2と被告標章3、 4とは上記のとおり類似するものであるから、これらの被告標章が被告ジーンズに 使用された場合、需要者は、被告ジーンズについて、その出所が一審原告であるか のように、あるいは少なくとも一審原告と資本関係又は提携関係を有する者である かのように誤認するおそれは極めて高く、したがって、一審被告による被告標章 1、2、3、4の使用は、不正競争防止法2条1項1号の「他人の商品・・・と混同を生じさせる行為」に当たることが明らかである。
ジーンズ刺繍事件平成12年(ネ)第3882号 東京高裁不正競争行為差止等請求控訴事件
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原判決の判断
原判決は、原告標章1、2に基づき不正競争防止法2条1項1号及び3条に より、また、原告商標権1、2に基づき商標法36条により、被告標章1、2を付 した被服の販売行為の差止め及び当該被服の廃棄を求める請求を認容し、その余の 請求をいずれも棄却したところ、一審原告は原判決中請求棄却部分(ただし、原判 決別紙原告標章目録(六)記載の標章及び原告商標目録(六)記載の商標に基づく被告 標章目録(八)-一~四及び(九)記載のハウスマークロゴに係る請求に対する部分を 除く。)を不服として、また、一審被告は原判決中請求認容部分を不服として、それぞれ控訴をした。
争点
(1) 争点1(原告標章1、2、2-2に基づく被告標章1、2、3、4に係る 請求) 一審被告による被告標章1、2、3、4の使用行為が、原告標章1、2と の関係で、また、被告標章3、4の使用行為が、原告標章2-2との関係で、それ ぞれ不正競争防止法2条1項2号又は同項1号に当たるか。
(2) 争点2(原告標章3、4に基づく被告標章5に係る請求) 一審被告による被告標章5の使用行為が、原告標章3、4との関係で不正競争防止法2条1項2号又は同項1号に当たるか。
(3) 争点3(原告標章5に基づく被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び 6、7、10に係る請求) 一審被告による被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10の 使用行為が、原告標章5との関係で不正競争防止法2条1項2号又は同項1号に当 たるか。
(4) 争点4(原告商標権1、1-2、2に基づく被告標章1、2、3、4に係 る請求) 一審被告による被告標章1、2、3、4の使用行為が、原告商標権1、2 の侵害行為に、また、被告標章3、4の使用行為が、原告商標権1-2の侵害行為 にそれぞれ当たるか。
(5) 争点5(原告商標権3に基づく被告標章5に係る請求) 一審被告による被告標章5の使用行為が、原告商標権3の侵害行為に当た るか。
(6) 争点6(原告商標権4に基づく被告標章6、7、10に係る請求) 一審被告による被告標章6、7、10の使用行為が、原告商標権4の侵害 行為に当たるか。
(7) 争点7(権利濫用) 一審原告の原告標章1、2に基づく被告標章1、2に係る請求(争点1) 及び原告商標権1、2に基づく被告標章1、2に係る請求(争点4)が、権利の濫 用に当たるか。
裁判所の判断争点1について
(1) 争点1(原告標章1、2、2-2に基づく被告標章1、2、3、4に係る請求) 一審被告による被告標章1、2、3、4の使用行為が、原告標章1、2と の関係で、また、被告標章3、4の使用行為が、原告標章2-2との関係で、それ ぞれ不正競争防止法2条1項2号又は同項1号に当たるか。
>判断
原告標章1、2は、一審原告の商品等表示として、 昭和59年までには周知性を獲得し、その後も継続的な宣伝広告がされ、各種雑誌 の記事において繰り返し取り上げられていること等により、現在においては相当程度広く知られていることが認められる。そうすると、上記(3)のとおり、原告標章 1、2と類似する被告標章1、2を付したジーンズが販売された場合には、需要者において、その出所が一審原告であるかのように、あるいは少なくとも、被告標章 1、2を付したジーンズを販売する者が一審原告と資本関係又は何らかの提携関係を有する者であるかのように誤認混同するおそれがあるものと認められる。
原告標章 1、2を一審原告の商品表示等とし、被告標章3、4を対象とする不正競争防止法 に基づく請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
原告標章2-2を一審原告の商品等表示とする不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
裁判所の判断争点2について
(2) 争点2(原告標章3、4に基づく被告標章5に係る請求) 一審被告による被告標章5の使用行為が、原告標章3、4との関係で不正競争防止法2条1項2号又は同項1号に当たるか。
>判断
原告標章3と被告標章5とは、外観、観念及び称呼のいずれの点においても類似せず、非類似であると認められる。 したがって、原告標章3を一審原告の商品等表示とし、被告標章5を対象 とする不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理 由がない。
原告標章4を一審原告の商品等表示とする不正競争防止法 に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
裁判所の判断争点3について
(3) 争点3(原告標章5に基づく被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び 6、7、10に係る請求) 一審被告による被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10の 使用行為が、原告標章5との関係で不正競争防止法2条1項2号又は同項1号に当たるか。
>判断
原告標章5-1がその赤色の色彩的特徴自体によって、 識別力を備え、商品等表示性を有するとの一審原告の主張は採用することができず、原告標章5-1を一審原告の商品等表示とする不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
原告標章5-2、5-3、5-4 が、そこに記載された「LEVI'S」又は「Levi's」との文字から独立して、その赤色 又はオレンジ色の地の色彩自体によって、一審原告の商品を識別する機能を果たし ているものと認めることはできず、したがって、その赤色又はオレンジ色の色彩的 特徴自体によって、識別力を備え、商品等表示性を有するとの一審原告の主張は採 用することができない。
原告標章5-2、5-3、5-4を一審原告の商品等表示と し、被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10を対象とする不正競争防止法に基づく請求は理由がない。
裁判所の判断争点4について
(4) 争点4(原告商標権1、1-2、2に基づく被告標章1、2、3、4に係 る請求) 一審被告による被告標章1、2、3、4の使用行為が、原告商標権1、2 の侵害行為に、また、被告標章3、4の使用行為が、原告商標権1-2の侵害行為 にそれぞれ当たるか。
>判断
原告商標2と被告 標章3、4の基本的構成態様において、共通点に包摂されない顕著な差異があっ て、これらを離隔的に観察する場合においても、それぞれ別異の印象を看者に与え ることは明白であるといわざるを得ず、細部の形状における各共通点及び各差異点 を総合考慮しても、両者は全体として非類似であるというべきである。 ウ したがって、原告商標権1、1-2、2に基づき、被告標章3、4を対 象とする請求は理由がない。
裁判所の判断争点5について
(5) 争点5(原告商標権3に基づく被告標章5に係る請求) 一審被告による被告標章5の使用行為が、原告商標権3の侵害行為に当た るか。
>判断
原告商標3は「501」の、被告標章5は「505」の、いずれも特徴のな い字体による数字によってなるものであるところ、これらが非類似と認められることは、上記2(争点2について)の(2)に、原告標章3と被告標章5について述べた と同様である。 したがって、原告商標権3に基づき、被告標章5を対象とする請求は理由が ない。
裁判所の判断争点6について
(6) 争点6(原告商標権4に基づく被告標章6、7、10に係る請求) 一審被告による被告標章6、7、10の使用行為が、原告商標権4の侵害 行為に当たるか。
>判断
原告商標4は、黒色網目の入った四角形内部の中央より左寄りに赤色の縦長 長方形が配置され、その長方形内部に白抜きで「LEVI'S」の欧文字を縦書きした構 成よりなる平面商標であり、その構成上、「LEVI'S」の文字部分から、「リーバイ ス」との称呼が生じ、また、上記のとおり、それが一審原告の著名な略称であるか ら、一審原告(米国リーバイス社)の観念を生ずるものと認められる。 他方、被告標章6、7、10は、赤色又はオレンジ色の地のタブ で、「EDWIN」の文字が記載されたものであり、外観、観念及び称呼のいずれにおい ても原告商標4と類似するとはいえないから、被告標章6、7、10は、全体とし て原告商標4と非類似というべきである。
したがって、原告商標権4に基づき、被告標章6、7、10を対象とする請求は理由がない。
裁判所の判断争点7について
(7) 争点7(権利濫用) 一審原告の原告標章1、2に基づく被告標章1、2に係る請求(争点1) 及び原告商標権1、2に基づく被告標章1、2に係る請求(争点4)が、権利の濫用に当たるか。
>判断
権利濫用にあたらない。