確率評価の難しさ
http://gyazo.com/a4ec2c3f9d710360f8476ebec0ed9934.png
モンティ・ホール問題
人間は確率的な思考が得意ではありません。宝クジが当たる確率は非常に低く、賞金の期待値は投資額の半分しかないにもかかわらず、沢山の人が一攫千金を夢見て喜んで購入しています。宝クジの購入が非合理的なのは明らかであり、嫌ならば買わなければ良いのですが、保険の種類の選択に悩んだり、携帯電話の料金プランに悩んだり、確率の計算と無縁に生活することは困難です。しかし確率計算が必要な問題は直感に反することがよくあるので注意が必要です。 誕生日問題
確率が直感と異なる有名な例として、「$ 50人の人間がいるとき、同じ誕生日の人がいる確率はどれぐらいか?」という問題があります。誕生日は約$ 365種類あってほぼ均等に分布していると思われますから、自分の隣の人の誕生日が自分と同じである確率は$ 1/365 = 0.00274であり、隣の人の誕生日が自分と異なる確率は$ 364/365 = 0.99726です。その隣の人の誕生日が自分の誕生日と異なる確率も同じですから、隣のふたりとも自分と誕生日が異なる確率は$ (364/365) \times (364/365) = 0.99453になります。同様にして、自分以外の$ 49人の誕生日がすべて自分と異なる確率は$ (364/365)^{49} = 0.87421になるので、自分と同じ誕生日の人がいる確率は$ 0.12579程度になります。$ 50/365 = 0.136986ですから、「誕生日は$ 365種類あってここに$ 50人いるのだから自分と同じ誕生日の人がいる確率は$ 1/7ぐらいだろう」という単純な直感とそれほど値は異ならないことになります。
しかし、「50人の人間がいるとき、同じ誕生日の人がいる確率はどれぐらいか?」という問題ではどうでしょうか?自分の隣の人の誕生日が自分と異なる確率は$ 364/365 = 0.99726ですが、自分の隣の隣の人の誕生日が自分とも隣の人とも異なる確率は$ (364/365) \times (363/365) = 0.991795834115になるので、50人の誕生日が全部異なる確率は$ (364/365) \times (363/365) \times (362/365) \times ... \times (316/365) = 0.029626420となり、誰かふたりの誕生日が一致する確率は$ 1 - 0.029626420 = 0.97037357となります。つまりほぼ確実に誕生日が一致するふたりが存在することになります。これはかなり直感と異なるのではないでしょうか。
自分以外に364人の人間がいたとしても、自分と同じ誕生日の人がいる確率が1に近づくわけではありません。実際計算してみると、自分と同じ誕生日の人がいる確率は$ 1.0-(364.0/365.0)^{364} = 0.63161であり、意外と小さな値であることがわかります。1000人の人間がいる場合でも93.5%程度にしかなりず、これも直感とはかなり遠いでしょう。たとえば以下のようなギャンブルがあれば参加してしまいそうですが、確率を計算するとこれに参加するのは損だということになります。
参加者1000人
自分と同じ誕生日の人がいたら500円もらえる
いなかった場合は1万円を払う
500円貰える確率は93.5%なので主宰者の支出は$ 0.935 \times 1000 \times 500 = 467500円程度ですが、主宰者には$ 0.065 \times 1000 \times 10000 = 650000円程度の金が払われることになります。
兄弟の性別問題
誕生日問題やギャンブル問題の場合は、計算に注意が必要かもしれないと考えるかもしれませんが、直感が強力な場合は間違った答をなかなか訂正できないことがあります。
「ふたりいる子供の一方が男の子の場合、もう一方も男の子である確率は」という問題も間違えやすいことで有名です。この確率は$ 1/2だと考えてしまいがちですが、正解は$ 1/3です。
ふたりの子供をA、Bとするとき、A、Bが男の子か女の子かという場合分けは左図のようになりますが、一方が男の子であるケースは3種類あるのに2種類のケースにおいてもう一方は女の子になるので、この問題の答は$ 1/3だということになります。
http://gyazo.com/8c6ec91fd2829798457f5112d995ad90.png
この問題を少し複雑にしたものとして、「ふたりの子供の一方が男の子で火曜日生まれの場合、もう一方も男の子である確率は」という問題を考えてみましょう。「火曜日生まれ」という条件がどういう意味をもつのかよくわからないので、この問題の答は$ 1/2か$ 1/3だと考えるのが普通ですが、あらゆる可能性をきちんと考えて計算すると確率は$ 13/27 = 0.48148になることがわかります。
モンティ・ホール問題
確率の見積りを誰もが間違いやすい問題として、以下の「モンティ・ホール問題」というものが有名です。これはモンティ・ホールという司会者のゲームショー番組に由来するもので、以下のようなものです。 「プレイヤーの前に3つのドアがあって、1つのドアの後ろには景品の新車が、2つのドアの後ろにはヤギ(はずれを意味する)がいる。プレイヤーは新車のドアを当てると新車がもらえる。プレイヤーが1つのドアを選択した後、モンティが残りのドアのうちヤギがいるドアを開けてヤギを見せる。
ここでプレイヤーは最初に選んだドアを、残っている開けられていないドアに変更しても良いと言われる。プレイヤーはドアを変更すべきだろうか?」
最初は当たりを引く確率が$ 1/3だったことは明らかですが、「モンティがドアを開けたことによって確率が$ 1/2になったわけだから、ドアを変更してもしなくても同じ」だと考える人が多いようです。実際はモンティはわざわざハズレを選んで開けているわけであり、最初に選んだものの当たりの確率が変わったわけではありませんから、ドアを変更した方が当たりを引く確率は上がります($ 2/3になる)。この問題は見かけよりも奥が深く勘違いしやすいもので、有名な数学者でも間違えたという逸話が沢山残っており、モンティ・ホール問題に関連する話題だけで一冊の本(*1)が書かれているほどです
これらの例から唯一確かに言えることは、「人間の確率感覚は全くアテにならない」ということでしょう。確率が関係する問題に直面したときは、直感的にすぐに判断することはせず、よく考えたり他人に相談したりするのが良いでしょう。