名前の効用
人間社会では様々なものを識別するのに名前が利用されています。名前を持ってない人はいませんし、およそ人間が利用したり表現したりするものには名前がついており、様々なものを指定したり区別したりするのに利用されています。「高山によく生えてる、白い花びらが5枚あって真ん中が黄色い小さな花」などと言うよりも「チングルマ」と言った方が話が速いですし、 私のことを表現するには「変なシステムを色々作ってた奴」などと言うより「増井俊之」と表現する方が簡単でしょう。
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チングルマ
ふだんの生活で名前はあまりにも当然のものとして利用されているため、コンピュータの利用やコミュニケーションにおいてもなんらかの名前を使うのが普通になっています。通信相手を指定するには電話番号やメールアドレスのような名前が使われますし、データやWebページを指定するにはファイル名やURLのような名前が使われます。コンピュータの名前/プリンタの名前/アプリケーションの名前/...など、コンピュータで利用される全ての対象は名前で区別されます。
しかし、よく考えてみるとこれらを扱うのに本当に名前が必要なのかは疑問です。日本ではあらゆる建物に住所という名前が定義されているのに対し、ほとんどの道には名前がありません。道に名前が無くても道案内に特に困ることがないことを考えると、あらゆるものに名前が必要だということを疑う必要がありそうです。
名前の問題点
名前を使うことは便利なことばかりではなく、問題も沢山あります。
名前を覚えるのが大変
歳をとると目の前の知人の名前が思い出せないことがあるぐらいですし、名前というのは特に記憶しやすいものではありません。マウスを使ってウィンドウやメニューを操作するグラフィカルユーザインタフェース(GUI)が普及する前のコンピュータでは、キーボードを使ってコマンド文字列をコンピュータに入力して様々な指示を行なうコマンドラインインタフェース(CLI)がよく使われていましたが、、コマンドや引数の文字列を覚えるのは結構大変なので、GUIが発明されるまでは普通の人がコンピュータを使うことができませんでした。 新しい名前を考えるのが難しい
パソコンで文書を作るときは、作成した文書に名前をつけてファイルとしてセーブする必要があります。どういうファイルなのかわかるようにするため、「第3回ABC研究会レポート」とか「A社打合せ資料 2014-1-12」のように、中身がすぐにわかるような名前をつけている人が多いと思われます。しかし一貫性がある名前をつけることは楽ではありません。一度変な名前をつけてしまうと、間違って捨ててしまったり、後で捜せなくなくなってしまう可能性が高くなってしまいます。CLIの時代はコンピュータコマンドの名前を覚えるのが大変でしたが、GUIの時代になってコマンド名を覚える必要がなくなったのにもかかわらず、データを格納するファイルに適切な名前をつけたりその名前を後で思い出す必要があったりするのは残念なところです。
相手が人間ならば、正確な名前を使わなくても「あれをそこの上に置いといて」のような指示ができますが、相手がコンピュータの場合、目の前にあるプリンタに対し「このプリンタに印刷」などと指示することはできず、常に名前を指定しなければなりません。「そこのプリンタ」と指示することができないとしても「会社のレーザープリンタ」や「去年買ったインクジェット」のような指定ができても良さそうなものであり、これが可能なら必ずしもプリンタに名前をつける必要はないことになります。
面倒な名前を使わずに暮らす
昔は覚えやすい短いURLが人気がありましたが、最近は必ずしも短いURLが絶対に良いとは考えられておらず、わかりやすいキーワードで検索できるようであればURLは長くてもかまわないという風潮になっているようで、「〜で検索」というアイコンを表示した広告が最近よく使われています。私は「pitecan.com」というサイトで情報を公開しているのですが、このURLを覚えてもらうよりも「増井」で検索する方が楽ですから、URLを知らせるかわりに「「増井」で検索して下さい」と言うようにしています。
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「増井」で検索!
つまり検索が可能なら名前は必ずしも必要ないことになります。今後、多彩な検索手法が利用可能になるにつれ、名前の重要性は低下していく可能性があります。常に「オフィスのプリンタ」や「去年買ったプリンタ」のような表現が使えるならプリンタに名前をつける必要はなくなるでしょう。
とはいうものの、現在のコンピュータは名前の利用が基本になっていますから、以下のようにして、名前を利用しつつもその重要性を徐々に下げていくような工夫が必要だと思われます。
解決法1: 自動的に名前をつける
デジカメで撮った写真には自動的に生成されたファイル名(e.g. CIMG1234.JPG)が使われます。デジカメのファイル名から写真の内容を知ることは不可能ですが、写真管理システムで工夫することにり、撮影時刻やタグなどを使ってそれなりに整理することが可能になっています。
複数のコンピュータを区別するためには、従来は各マシンに名前をつける作業が必要だったため、マシンが沢山ある場合はそれぞれのマシンに適切な名前を割り当てなければならないのが面倒でしたが、最近のパソコンでは従来通りマシン名は存在するものの、マシン名を自動生成することによって名前の登録を不要にしているものもあるようです。私が現在使っているコンピュータでは、明示的に名前づけを行なっていませんが、ユーザ登録情報を利用して「Toshiyuki Masui's Computer」のような自動生成されたマシン名が使われています。自分の好きなマシン名を設定できるのは楽しい面もありますが、沢山のコンピュータを利用する場合は面倒の方が多いでしょう。
tinyurl.comやbit.lyのようなアドレス短縮サービスではURLが自動生成されますし、私が運営している画像アップロードサービスGyazoでも画像のURLは自動生成しています。ファイル名やURLについて考える必要が無いと心理的負担がかなり小さくなります。 解決法2: 後で名前をつける
どうしても名前が必要になる場合、名前をつけるのを後回しにすると良いかもしれません。現在使われている大抵の文書作成システムでは、文書を作った後で名前をつけて保存できるようになっているのはこの方針を採っているといえるでしょう。仕事を始める前に名前を決めるのは面倒なものです。どうしても必要になってはじめて名前をつけるようにすれば面倒な気分は減るかもしれません。
解決法3: 短い名前を使う
私はネット上でブックマーク管理を行なうことができるGyampというサービスを運営しています。Gyampを使うと、任意のURLに任意の名前をつけて保存できるので便利です。この方法について少し詳しく説明します。 Gyampを使ったURL短縮
https://maps.google.co.jp/maps?ll=35.698683,139.774219&z=15
のような長いURLを
http://bit.ly/c1f2fq
のような短いURLに短縮することができます。これはとても便利なのですが、「秋葉原」が「C1f2fq」であるということを覚えておくことは難しいですし、一時的にでも「C1f2fq」という文字列を覚えることは難しいので、人に伝えたり記憶したりするには不便です。TinyURLを利用するとhttp://tinyurl.com/akibamapのような短いURLをユーザが指定することもできますが、このようなIDはあらゆるユーザで共有されるため、一度登録したものは修正や変更ができないのは不便です。
Gyampを利用すると、TinyURLやBit.lyと同じように、長いURLのかわりに
http://Gyamp.com/ユーザ名/ID
のような短いURLを利用することができるようになります。例えば上述のURLは
http://Gyamp.com/test/akihabara
のような別名で登録することができるので、「test」及び「akihabara」という単語を覚えておけばどのブラウザからでも簡単に秋葉原の地図を参照できるようになります。(ちなみにGyamp.comは以前は3memo.comという名前でサービスを行なっていました。IDとして3文字のキーワードを推奨していたのでこのようなサイト名を利用していましたが、3文字にこだわる理由があまりないのでサイト名を変更し、3文字を特別扱いしないようにしました。)
TinyURLやBit.lyのサービスと異なり、Gyampでは同じIDに異なるURLを再登録できるようになっています。たとえば秋葉原の地図のかわりに秋葉原駅の情報を
http://Gyamp.com/test/akihabara
に登録しなおすこともできます。
Gyampへの登録
GyampはTinyURLのような利用法をメインに考えています。URLにhttp://Gyamp.com/test/akihabaraという別名をつけたい場合、http://Gyamp.com/test/akihabara!のように最後に「!」をつけたURLにアクセスすると、下図のような登録画面が出て長いURLを登録できるようになります。
http://gyazo.com/44a6183dec3b3c1531b30d418756a247.png
登録後にブラウザからhttp://Gyamp.com/test/akihabaraにアクセスすると、登録したアドレスに転送されます。私は本棚.orgや天気予報などよく使うサイトのURLを「hon」「tenki」のような名前で登録してブックマーク的に利用しています。 同じIDの再利用
Gyampでは同じIDに異なるURLを登録し直すことができるので、目的地の地図を常にhttp://Gyamp.com/test/mapのようなアドレスに登録しておくことにすれば、このアドレスにアクセスすれば常に現在の目的地を表示することができます。私はパソコンのデスクトップやスマホのホーム画面にこのアドレスを登録しています。知らない場所に行くとき、行先の地図のURLをこのGyampアドレスに登録しておくことにより、パソコンやスマホから簡単に目的地の地図にアクセスできるようになります。
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Androidホーム画面のショートカット
文字列の登録
GyampではURL以外の文字列も登録することができます。たとえば買い物リストをhttp://Gyamp.com/test/buyというアドレスに記録しておくことにすれば、買い物リストにパソコンやケータイから簡単にアクセスできるようになります。この方法を使うと様々なマシンから簡単に同じ情報にアクセスできるようになるので、異なるマシン間での文字列のコピペに利用することができます。マシンAに表示されている文字列をマシンBで利用するのは意外に面倒なものですが、マシンAの文字列をhttp://Gyamp.com/test/tmpのようなアドレスに登録し、これにマシンBからアクセスすることにすれば、簡単にマシン間で文字列をコピペすることができます。
私はGyampを長年利用しており、自分の生活にかかせないサービスのひとつになっています。Firefoxでは検索窓に任意の検索システムを組み込むことができるようになっているので、Gyampを検索窓に登録しておくことによって「map」や「tenki」などと打つだけで目的のページに飛ぶことができるようになります。このため私はブラウザのブックマーク機能はほとんど利用しなくなってしまいました。
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Firefoxの検索窓にGyampキーワードを入力して地図を表示
ネット上にブックマークを登録して共有する「ソーシャルブックマーク」が最近広く利用されていますが、ブックマークしたページに後でアクセスするには結構手間がかかります。個人的にネット上でブックマークを利用するのにGyampは非常に便利です。