ハンターのマッチングで森林再生に挑む! 異業種とタッグ組む若き林業家の想いとは
2022/08/26
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メイン画像:鹿が好きな米ぬかを撒いて罠に誘導。その上に狩猟者の許可書を掲示するのがルール。 “活動の場がない猟師”と“獣害で困っている山主や農家”を林業家がつなぐ『カリツナギ』が、奈良県宇陀市でスタート。狩猟で森を再生するという、珍しい新規事業にチャレンジする森本さんに話をうかがった。 新米・街に暮らすハンターが地域の獣害を救う!?
今年から本格始動した『カリツナギ』に取り組むのは、日本最古の人工林で知られる奈良県吉野地区で1927年創業の「森庄銘木産業」4代目・森本達郎さん。
地元・宇陀市の伝統産業「磨き丸太」などの木製品製造・販売と、奈良県から三重県一部にかけたエリアの伐採から原木販売までの森林管理を行っている。 右:日本建築の床柱などで用いられてきた「磨き丸太」は、江戸時代から地元の伝統産業として発展。原木の育成から加工、販売まで一貫して行う。
中:磨き丸太のスツールや一枚板テーブルを扱う自社ブランド「MORITO」。鹿が描かれたブランドロゴに、鹿と人が共存できる森づくりの願いがこめられている。
左:築100年近くの蔵を改装したショールーム。カリツナギの試食会場としても使われる。
「今、山主さんのほとんどが『苗木を植えても鹿に食べられて育たない』と植林を断念しています。家業に入ってまだ4年目ですが、この問題を先送りしては森林再生が進まない。これほどまでに放置されてしまった獣害は、林業事業者だけでは解決しないと感じていました」。 鹿が樹皮を食べた後。病原菌が侵入し、倒木や立ち枯れの原因になる。そばにはタケノコを食べた形跡も。
そんな折、森林づくりの課題を林業に携わる人と異業種の起業家で解決する林野庁の助成事業「サステナブル・フォレスト・アクション(SFA)」へのエントリーが決定。
ゲーム関連会社「3rdKind」CEOで、事業開発の経験を持つ細谷太郎氏とタッグを組み、獣害に困る林業家と地域外・新米の猟師をマッチングするサービスの新事業計画を練り上げた。田舎で畑仕事を楽しむ東京在住の細谷氏も「今後は都会の人向けの自然相手の新規事業がくる」と手応えを感じていたという。
そして見事に入選し、その実証実験としてカリツナギがスタートした。
カリツナギで行う狩猟方法は「くくり罠」がメイン。罠に足をかけて捕獲する。 狩猟イベントは予想以上の反響が!
再造林の課題・獣害に、若き林業家が「猟師と、山主や農家のマッチングサービス」で挑む! ついに奈良県宇陀市で開始したサービスには、なんと予想以上の反響が。森庄銘木産業の森本さんに今後の「夢」を聞いた。
若き林業家の想いとは
森庄銘木産業の森本さんは、ゲーム関連会社「3rdKind」CEOで事業開発の経験を持つ細谷太郎氏とタッグを組み、森林づくりの課題を林業に携わる人と異業種の起業家で解決する林野庁の助成事業「サステナブル・フォレスト・アクション(SFA)」へエントリー。
獣害に困る林業家と地域外・新米の猟師をマッチングするサービスの新事業計画を練り上げ、見事入選し、その実証実験としてカリツナギがスタートした。
結果は、予想以上の反響!狩猟の場のニーズの高さを実感
受賞後、森本さんは「わな猟」の免許を取得し、今年1月に第1回目のカリツナギを開催した。
ワナにかかった鹿はその日に解体して試食。捕獲できるかどうかは運しだいのため、事前に試食の準備をしておく。
森本さんはこう話す。「狩猟イベントは色々な制度をクリアしなければいけないので、民間企業だけでは難しい。自治体の力を借りて運営しています」。
スタッフは、狩猟免許を持つ宇陀市地域おこし協力隊2人と、地元の熟練ハンターの中村氏、森本さんの総勢4名。今年5月までに月1回のペースで4回開催し、予想以上の反響があった。
「WEBで募集をしていて、定員10名の枠が3日で埋まってしまいます。参加者は20〜40代、3割ほどが女性。県内ほか、京都、大阪、兵庫からも来てくれます」。
イベントは10人程度の少人数制。熟練猟師の中村さんは会社の従業員のお父さんで兼業農家の仕事の合間に手伝ってくれる。「自然と対峙するハンターと林業家は、分かり合える部分が多い」と森本さん。
これは、都会の人を森に集客する大変さを知る森本さんにとっては驚きで、狩猟の場のニーズの高さを実感した。これまでに参加者からは“狩猟の場がなくて困っていたのでありがたかった”“企業研修や従業員の家族の福利厚生としても活用できる”などの感想が寄せられている。
今年4月には、カリツナギの新聞記事を見た奈良市の高校生がゼミの活動として参加(詳しい活動レポートは下へ!)。森林再生の想いから始まったカリツナギは、森本さんの想像以上に、様々な人たちをつないでくれる。
今後の展望は、北海道の一部の地域で始まっている“猟区”を地元に作ること。
「父は長年、宇陀市からの依頼で『境界明確化事業』に携わっているのですが、どうやっても採算がとれない森林が必ずあります。そこを狩猟ができる場所として有料で一般開放し、収益を山の維持や再生に使うというものです。
コスト面や人員の足りなさなどの課題があり、まだまだ“夢レベル”ですが、いつか実現させたいですね」。
カリツナギ参加者の声!
奈良県立国際高等学校「グローバル探究」活動でカリツナギに参加
奈良県立国際高等学校の松本真紀先生は次のように語った。
「『いのちの輝きを未来に伝える』というゼミで、獣害として駆除される野生動物との共存をテーマに活動する高校生が参加しました。今回、初めて『止めさし』の瞬間に立ち合い、教室で学ぶだけでは分からなかった現場の空気に触れ、自分の感情とも向き合うことができました。
活動後は自分たちでできることをと、生駒市の市民農園の防護柵設置の手伝いや野生動物と人との距離を保つための巡回活動を行っています。また社会や環境問題に正面から向き合う大人との出会いは、生徒たちが卒業した後の生き方を考える時の良いお手本にもなるとも思いました」。
どんな体験があるの?
『カリツナギ』スケジュール
<1日目>
9:45 森庄銘木産業へ集合・受付
9:50 事前説明・移動
10:00 狩猟(罠)体験 ※アニマルトラッキング・罠設置箇所の選定
12:00 移動・解散
<2日目>
8:30 集合・受付
8:45 事前説明
9:00 移動
9:15 狩猟(罠)体験 ※アニマルトラッキング・罠チェック・止めさし・罠設置
11:15 解体
12:30 鹿料理・試食
13:30 片付け・イベントのアンケート調査
14:00 解散
2022年2月19・20日開催
(1日参加5000円/通し参加7500円)
PROFILE
森庄銘木産業 株式会社 取締役専務 森本達郎さん
1993年生まれ、奈良県出身。立命館大学卒業後、3年間大手木材商社で営業を経験した後に帰郷、2019年取締役専務に就任。仕事のテーマは「森と暮らしをつなぐ」。2021年には、 床・壁・内外装材の「ヒノキ曲がり梁(はり)」とイベント・ワークショップ「『自分ちの森』を知る第一歩 若手林業家と巡る森林ツアー」でウッドデザイン賞を受賞。
DATA
森庄銘木産業株式会社
奈良県宇陀市菟田野古市場511-2