窓べりの冷蔵庫
20世紀フォックスが50年代に製作した、5つの短篇オムニバス「人生模様」(O. HENRY'S FULL HOUSE, 1952)で、いまだに印象に残っているのは、ジョン・スタインベックのいささか大仰な解説でも、ご存知マリリン・モンローでも、チャールズ・ロートンの名演技という凡庸な言い方では形容したくない「コケティッシュ」な演技でもなかった。もちろんハワード・ホークスは大好きなので、「赤い酋長の身代金」の、ブルブル振動しながらキーキー不快なエンジン音を立てるジープや、間抜けな人攫い二人組、生意気ですべてを意のままにコントロールする少年なんかを見ると、心の底から笑ってしまうのだけれど。
ヘンリー・キングが監督を務めた第5話「賢者の贈り物」で、ジーン・クレインとファーリー・グレンジャーが住む、見るからに隙間風が吹き込んでいそうな古いアパートメント。通りにいるサンタの恰好をした救世軍らしき男からカメラが上へとパンすると、ジーン・クレインが窓を開け、外の窓べりに置かれた小さな「冷蔵庫」から数本の牛乳瓶を取り出している。僕はこの小さな鉄の留め具のついた「冷蔵庫」が大好きで、このシークエンスだけ見直すことが多々ある。
「冷蔵庫」は、通りの光景(クリスマス)から室内(貧しい夫婦の住居)へと場面を転換するための小道具に過ぎないわけで、ジーンが牛乳瓶を取り出し、ブラインドを下げるとともに、映像は室内へと切り替わり、ストーリーの本題(クリスマスプレゼントに何が欲しいか)へと映画は進んでいく。
この古典的なフィルムのつなぎの美しさによって、窓べりの冷蔵庫は一人の人であるかのような、存在感を放っている。
『ロープ』『見知らぬ乗客』『夏の嵐』のような、陰影のあるファーリー・グレンジャーはここにはいないが、僕はこの「冷蔵庫」に対して、同じような「陰影」を感じるのである。