ポエム
Q: これまでいろいろ苦労されたと聞いているのですが本当でしょうか?
M: いやぁ本当に苦労しましたよ。昔は認証といえばパスワードを覚えて使うものだと誰もが思ってましたし。 Q: パスワードっていうのは、利用者が覚えておかなければならない暗号のようなものでしたっけ?
M: そうです。自分だけが覚えている「!qa@ws#ed$rf」のような秘密の文字列を入力すると計算機が使えるようになるというのが普通だったんです。
Q: それってかなり面倒ですよね?
M: はい。しかもサービスごとに異なるパスワードを使えと言われていました。
Q: まさか!? 暗号文字列を沢山覚えておかなければならなかったのですか?
M: はい。サービスやシステムごとに異なるパスワードを覚えておく必要があったんです。
Q: 同じ文字列を使えばいいんじゃないんですか?
M: 使えるパスワードの形式がシステムごとに違うので、同じものを使い回すことができなかったんです。
Q: ちょっと想像しにくいですが...
M: 大文字と小文字と数字を混ぜたパスワードしか許さないシステムがあったり、長さに制約があるシステムがあったり、それはそれは大変だったんですよ。
M: それから、同じパスワードをあちこちで使い回すのは危険だとも言われてました。ひとつ漏洩したら全部アウトですからね。
Q: 確かにそうでしょうね。でも沢山のパスワードを覚えるのは不可能だと思いますが...
M: そうです。だからみんなパスワードを紙に書いて貼ったりしていたものです。
Q: それじゃ全然意味無いじゃないですか!
M: そうなんです。人間に絶対覚えられないものを強制してたのですね。
Q: ひどい...
M: パスワードを覚えられない奴は計算機を使う資格はない、という雰囲気がありましたね。
Q: えっ。じゃ記憶に問題がある人は、ていうか普通の人はほとんど、計算機を使う資格はなかったのですか?
M: そういう傲慢な考えが主流でした。
Q: 考えられませんね... それに異議を唱える人はいなかったんですか?
M: いなかったわけではありませんが少数派でした。異議を唱えるということは自分の記憶力が足りないことを認めることになると思ったのかもしれません。
M: 「裸の王様」みたいなもので、誰もが同意してることに異議を唱えるのは難しかったのですよ。
Q: なるほどねぇ... なんか全然納得できませんが、そういう時代があったということはわかりました。
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M: ところで、Qさんは財布を持っていますか?
Q: 持っていますけど... それが何か?
M: 財布には何が入っていますか?
Q: 小銭とかレシートとかが入っています。
M: 何故小銭を持ち歩いているんですか?
Q: 古い店とかでタマに使うからですが... それがどうかしたんですか?
M: 昔の人は財布の中に小銭以外に沢山のカードを入れてたんですよ。
Q: カード? 何のカードですか?
Q: ポイントカードって何ですか?
M: いろんな店が独自にカードを発行していて、それを見せると割引になったりするんです。
Q: 店ごとに独自のカードが必要な理由がわからないんですが...
M: 昔は現金で買い物する人が多かったので、誰が買い物してるか明示する必要があったんですよ。
Q: じゃぁ、自分が買い物してることを主張するためにカードを持ち歩いていたというんですか?
M: そうですね。しかも店の数だけカードを持ち歩かなけりゃならない。
Q: それじゃ財布がカードだらけになってしまう... あ、だから昔の財布ってあんなに大きかったんですか!?
M: そのとおりです。
Q: で、財布の話は認証の話に関係あるのでしょうか?
M: おおいにあります。ポイントカードは何故必要だったのでしたっけ:
Q: 買い物する人が誰なのかを主張するためなのですよね?
M: そうです。今は、そんなもの使わなくても誰が買い物してるのかわかるからカードは要らないわけですね。
M: いつでもどこでも認証ができていればカードなど持ち歩く必要がないわけです。
(続く)