篠田真貴子氏が大企業の充実した社内制度を見て覚えた違和感 「よかれと思って」作られた制度で浮かび上がる組織の問題 - ログミーBiz
篠田:ありがとうございます。このnoteを書いたきっかけは、ある著名な、非常に立派な大企業の人事の方とお話をしたことでした。
D&Iがテーマで、誇らしそうに、「当社はD&Iに力を入れています。この制度もあの制度もあるので、見てください」と。本当にスライド資料数ページにわたって、さまざまな制度が書かれていたんです。その時に、正直けっこう強烈な違和感を覚えたんですが。その違和感がその場では今一つ言語化できず、「複雑ですね。どうなんだろう?」みたいな感想をもらしました。
それでちょっと考えてみて、「あっ」て思ったのが……。当然その会社の方はよかれと思ってやってるんですけど、なんでそんなに制度の数が多くなるかって言うと、女性や、身体的・精神的に、一般的には障害とされる特徴がある方。働き方に時間の制約・場所の制約がある方を取り上げては、それにまつわる仕組みを作ることを繰り返しているわけです。
それで結果的に浮かび上がってくるのは、その会社において、旧来どおりの「フルタイムで会社の命に従える男性」がマジョリティであると。そうじゃないマイノリティを細かく定義づけしては、それに対するお手当てをしている。
制度が多様になることで浮かび上がる無意識の組織観
篠田:つまり、絵で影を描くと、結果としてその主題が浮かび上がるかのごとく、制度が多様にあることで、結果、「マジョリティはこれだ」と。「あなたは子育てしてるから、あなたはジェンダーが違うからマイノリティです」と、むしろメインストリームの人材像の定義をクリアにしてるように見えたんですよ。
その方々は論理的にはまったく意図してないんだけど、半ば無意識のうちに、そういう社員に対する人間観と、「マジョリティで組織を作るべきである」という組織観が出てきてるんだなと、怖いなと思ったんですよね。
だから、そこを起点にいくつか考えたことを書きました。ダイバーシティは認めてると思うんですけど、少なくともインクルーシブではまったくない。その制度の裏にある、無意識にある基本思想。すなわち風土みたいなものは、私から見るとまったくインクルーシブではないし、ましてやエクイティ(公平)ではないと。
例えば、日本全国の統計でも、育児を理由にする時短って、別に性別の縛りはないわけですよね。だけど、実態として時短を取得している従業員の8割が女性なんですよ。なんでですかと。みなさんの職場がどうかわかりませんけれど、私がお話を聞くと、運用の結果、職場によっては「育休後復職してくる女性は時短が義務だから」ぐらいになっちゃってる職場がある。
逆に「男性が時短をとれるって知らなかった」とか。つまり、それは組織風土なんですよね。無意識に持っている人間観や組織観が、実はめちゃくちゃこういう制度に現れるんだなって思ったんです。D&Iって、制度がないと進まないけど、制度を入れたからってぜんぜん進まないんだなと思ったという話です。
人間って、当たり前ですけどある面から見たらみんな一様で、別の方向から見ると多様じゃないですか。そっちの一様性のほうを強調して、みなが揃うことにすごく会社のリソースを使って鍛え上げる。だから研修もやたら長いし、社宅はあるし、独身寮はあるし、仕事も長時間やって、その後も一緒に飲みに行ってってことで揃えていく。それを組織の力に換えるのを、長年OSとして作りあげてきた。