『Works 190|本気の女性リーダー育成』
2025年06月発行
https://www.works-i.com/works/item/w_190.pdf
Highlights & Notes
上野:コース別人事制度は企業が無傷で均等法を 乗り切るための工夫でした。女性本人の自己決定 で一般職を選んだことにされ、最初から昇進の道 が閉ざされました。自分が指導していた後輩の総合 職男性に、給与もポストもどんどん追い抜かれてい くという話を一般職女性からよく聞きました。女性 リーダーが育たないのは、女性の意識に問題がある という管理職もいますが、女性の意欲を冷却してき たのは一体誰なのか。そんな発言をする管理職自身 の責任が問われるべきではないのでしょうか。
その調査で興味深かったのは、マミートラックか ら抜け出したきっかけについてです。私は「夫」と の家事・育児分担がポイントではないかと思ってい たのですが、実際には夫以上に影響があったのは 「上司」でした。上司の後押しがあったり、自分か ら上司に働きかけたりしたこと、さらにフルタイム 勤務に戻したことが大きかった。これまで会社側 は「子育てとの両立が大変だから」と女性たちに 過剰に配慮しチャンスを奪ってきましたが、「今は 大変かもしれないけれども、あなたならもっとでき る」と期待して任せることが大切だと感じました。
- 期待と希望の言語化
上野:問題は、ジェンダーステレオタイプに基づく 男性のホモソーシャルな組織文化のなかで人事管 理のノウハウが蓄積されてきたことです。どんぐり の背比べのような均質性の高い集団のなかで競わ せて、そこで勝ち抜いた人だけが出世していくとい うやり方が染み付いている。そこに異質な人が入っ てくると、個別に能力や意欲を評価しなければなり ませんが、経験がないから個別処遇や個人評価が できないんですね。
私 は、男性も女性も企業と半身で関わるのが人として 真っ当なあり方だと思っています。私生活を犠牲 にして一体化するような滅私奉公の働き方を求め るのは間違いです。企業は人間のためにあるので、 人間が企業のために存在するわけではありません。
浜田:私もそう思います。これまでずっと女性を育 ててこなかったのですから、過渡期の今は早回し で育成・登用に取り組まなければならない。数値目 標があると、その人を何年後にどのポストに就ける かを意識して育成するようになると思います。
日本企 業はもともと「同じ釜の飯を食う」という同質性 を重視しがちで、議論することにも慣れていない。 そのため社外の人間が質問すると、しばしば防御 的な姿勢を取りがちで、「うちのやり方はこうい うもの」「社外の人に言ってもわからない」とい う反応が返ってきやすいのです。
さらに「女性」としての苦悩という意味では、 たとえば、私が約20年間の経営戦略コンサルティ ングの経験をもとに質問しても、圧倒的多数の取 締役メンバーの男性から「あなたは女性だから、 DEIの観点から話している」と受け止められてし まうこともしばしばありました。男性側に「女性 目線」というバイアスを外してもらい、経営目線 に立った自身のバリューを出していくことは本当 に難しいことでした。
しかも男性役員 の60.4%が社内登用であるのに対し、女性役員の 社内登用は13.0%のみです(右ページ図)。社内の 中核人材を育成する際に多様性が確保されてこな かったため、社内登用に関して男女で大きな差が 生じており、社内の女性役員候補の育成が課題と
「リクルートエージェント」における2023年度 の女性の転職者数は、10年前の2013年度と比べ て5倍になり、その伸び率は、転職者数全体と比 べても高い。熊本は「特に40代女性の伸び率が 顕著です。子どもが成長し、『もう少しチャレン ジできるかもしれない』と外部労働市場に出たり、 人生100年時代を見据えて自身のキャリアを構築 していこうとする意欲が強まっているためだとみ ています」と話す。
また、転職によって賃金が1 割以上増加した女 性は2023年度で41.3%に上った。女性はもとも と賃金が低い傾向にあるため、外部労働市場に出 た場合に賃金が上がりやすい傾向がある。これに 加え、人手不足を背景とした採用ニーズの高まり が影響していると熊本はみる。「正社員としての ブランクがあっても、採用につながる例が増えて います。企業側にも、家事や育児に関するポータ ブルスキルや学習意欲、職場での協調性などを含 めて評価する動きが出てきた印象があります」
能力不足でも、「白 人男性」というだけで下駄を履かせてもらえると したら、これこそ「新・DEI採用」といえるので はないか。だがどんなに実力不足であっても白人 男性である限り、決して「DEI採用」といわれる ことはない。その事実こそが、彼らがいかに絶対 的特権階級であるかを示している。
2008年の大統領選でオバマ氏が当選したとき、 人種という壁が克服されたと思った人は多かった はずだ。だが白人のなかには、オバマ氏のように あまりにも優秀なマイノリティの存在によって、 自分たちの国が、文化が、白人でない人たちに 乗っ取られてしまう恐怖を覚えた人も多かったの では、と今となっては思う。
30年以上アメリカに住み、アメリカ人たちと 一緒に仕事をしてきた立場から思うに、これらの 人々には人種差別をしている自覚はない。「あな たは racist(人種差別主義者)ですね」などと言っ たら、本気で怒るはずだ。彼らは無意識に白人男 性が優秀であると思い込んでおり、白人が頂点に
人間は 新しい権利は欲しがるが、自分が持って生まれた 権利を手放すことには強く抵抗する。
ABC社では組織 的に男女問わず、過去に管理職試験の挑戦を断っ た人にも毎回「試験を受けないか」と意思を確認 している。「育児のため一度受験を見合わせても、 状況とともに心情が変化することもあります。能 力もあり努力もしている人が昇進しないの
最近は管理職を希望する若者が減ったといわれ るが、千林氏は管理職の仕事を「宝箱のようにお もしろい」という。 「すべての業務に目配りしてバリューチェーンを 自分で設計できるし、仕事の進め方をコントロー ルできるため、家庭との両立もしやすい。専門職を 望む人も、一度は管理職を経験してからその先の キャリアを考えてもよいのではないでしょうか」
この場での議論をもとに設けられたのが、「ミ ライGM(MGM)」(GMは部長の意)だ。会社 の制度を変更したわけではなく同局だけのバー チャルな役職で、GMとペアを組んで1on1など 業務の一部を引き受ける。特徴的なのはGMと 異なる属性のMGMを選ぶ点で、ミドルの男性 GMには若手女性のMGMがつき、その逆もある。 MGMは「MGM会議」で組織の課題と解決策を 考え、局長や役員に提案もする。 「MGMはGMの負担を軽減するだけでなく、意 思決定の場に新たな視点と気づきももたらしまし た。MGM側も管理職の仕事を体験し、やりがい の一部を実感する効果がありました」(眞鍋氏)
関:住民がやることを職員にすげ替え るだけのシステムでは、職員の業務負 荷が増えて意欲が下がり、エラーが増 えて、結果的に住民の待ち時間が増え ます。そもそも職員が減っていくなか、 少ない人数で回せるようにすることと セットにして検討する必要があります。 住民だけでなく、職員も楽になるよう なDXでないと、持続しません。
関:個人の意見がデジタルによって増 幅され、政治に影響を及ぼすという状 況はもはや避けられません。それに対 してデジタル民主主義の考え方は、 もっとプロセスをうまく設計して、多 様な意見が人々の意識に上がるように して、ポピュリズムに突き進んでいくの を避けようとします。いろんな意見を 集めてAIで分析すると、異常値が滑ら かになり、冷静に議論ができます。声 は小さいけれど重要な意見、目立たな いけれど多くの人が言っている意見が きちんと反映されます。本当に人々が 必要だと思っていることを可視化して 政策決定に生かせるので、SNSを直接 摂取するのとは違う力学が働くんです。
日本では幕末の開国以降、西洋の衣服が入っ てきて、徐々に着物から洋服を着る人が増えて いきました。当初は市販の洋服がなく、多くの 女性が洋裁教室に通って技術を習得しました。 戦 後 には 洋 裁 の 専 門 学 校 が 多 数 設 立され、 ファッションデザイナーとして活躍する人も現 れます。つまり、ファッションは専門学校で学 ぶものとされ、大学の教育課程には位置づけら れてこなかったのです。 現在では大学でも、工芸の一環として染めや 織物を扱ったり、プロダクトデザインと並んで ファッションデザインを学んだりすることがで きますが、日本においては洋裁学校にルーツを 持つファッション専門学校の存在感が依然とし て大きいと思います。
平芳:20世紀を通じて、女性の服はより軽快で 活動的なものになっていきました。ただし、完 全に解放されたかというと、そうとも言い切れ ません。たとえばコルセットは廃れましたが、 その後はブラジャーなどの新しい下着が普及し ました。さらに、身体を補正しない「ありのま まのスタイル」が流行すれば、今度は理想の体 型を求めてダイエットをしたり、脂肪吸引や美 容整形にまで至ったりと、身体の内側にまで手 を入れるようになります。 身につけてはいないけれども、私たちはコル セットを内面化しているのです。常に自由な身 体を理想としながらも、解放されるためにはむ しろ拘束されていなければならない。ファッ ションには、そうした矛盾の無限運動があるも のといえます。
梅崎:ご著書では、ファッションは「人と同じ でありたいという同一化の願望と、一緒でいた いけれど人と違ってもいたいという差別化の欲 望の両方を同時に叶えるもの」と書かれていま す。近代に入り、私たちは階級から解き放たれ て自由になりましたが、今度は他人と違う自分 らしさを模索するようになります。まさにこの ことが、ファッションの流行を加速させている ように思います。
その意味で、定番ブランドの限定モデルが多 く出ているのも納得できます。みんなが価値を 認めるブランドの商品でありながら、少しだけ 差別化されている。まさに「人と同じでいたい けれど、違ってもいたい」という心理をかなえ る商品といえるでしょう。
「服」は単に着るだけのものですが、「ファッ ション」は人々に知られ、話題になることで成 立します。そのためには、メディアを通じて広 く伝えられる必要があり、ある程度目立つこと も重要になります。ファッションショーを見て 「素敵だな」と思ってもらうことも、「こんな服 は自分には無理かも」と感じてもらうことも、 ブランドを知ってもらう入口になり得ます。
/icons/hr.icon
#2025/07/28
https://www.works-i.com/works/no190.html
https://gyazo.com/6d9696d9d98779b282a0baabe7bfe9e7