続・プロバイダ責任制限法 (rush/20/04/24)
ここでは、法律条文を中心に最も大事な部分を解説しました。
今日は省令と特別法であるリベンジポルノ防止法についても調べたので、ここに記します。
※注意:私は法学徒ではありませんし、調べた内容はできるだけ正しく書いているつもりですがその正しさについて一切責任は取れないので注意してください。
調べたもの
省令 侵害情報の発信者の個人情報開示請求があって開示するときに、開示する情報について
リベンジポルノ防止法 正式名称は「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」、第四条にプロバイダ責任制限法に関する記述がある。
ガイドライン 正式名称は「プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」どんな情報を削除すべきで、どんな情報を削除しないべきかを免責の観点から記してある。
省令
プロバイダ責任制限法の第四条で、権利を侵害した発信者の情報開示について、発信者情報を以下のように定めています。
「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。」
ということで、これについて詳しく定めた総務省令を見てみます。
正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」です。長い!
正式名称等は省令本文を読んでいただければ分かるのですが、ここには省略して羅列しておきます。
発信者の氏名 又は 名称
発信者の住所
発信者の電子メールアドレス
発信したIPアドレス、ポート番号
携帯電話端末 又は PHS端末の、インターネット接続サービス利用者識別符号
SIMカード識別番号
発信した年月日及び時刻
一部は、携帯会社(Docomoとか)を念頭に置いた内容ですね
リベンジポルノ防止法
正式名称は「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」で、裸体や性行為を記録したプライベートな動画(以下ここでは、該当データとします。)をインターネットに配信されることを防止することで、被害者を守ろうとする法律です。
この法律の中で、第四条に置いてプロバイダ責任制限法に言及しており、アップロードされたものが、リベンジポルノ防止法の該当データであった場合、特別にプロバイダ等が削除しやすいような条件が定められています。
第四条 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第三条第二項及び第三条の二第一号の場合のほか、特定電気通信役務提供者(同法第二条第三号に規定する特定電気通信役務提供者をいう。以下この条において同じ。)は、特定電気通信(同条第一号に規定する特定電気通信をいう。以下この条において同じ。)による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者(同条第四号に規定する発信者をいう。以下この条において同じ。)に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれにも該当するときは、賠償の責めに任じない。
これは要は、該当データにあたる場合には、以下のプロセスを踏んで削除すれば賠償の責めに任じないという意味です。
一 特定電気通信による情報であって私事性的画像記録に係るものの流通によって自己の名誉又は私生活の平穏(以下この号において「名誉等」という。)を侵害されたとする者(撮影対象者(当該撮影対象者が死亡している場合にあっては、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹)に限る。)から、当該名誉等を侵害したとする情報(以下この号及び次号において「私事性的画像侵害情報」という。)、名誉等が侵害された旨、名誉等が侵害されたとする理由及び当該私事性的画像侵害情報が私事性的画像記録に係るものである旨(次号において「私事性的画像侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し私事性的画像侵害情報の送信を防止する措置(以下「私事性的画像侵害情報送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があったとき。
二 当該特定電気通信役務提供者が、当該私事性的画像侵害情報の発信者に対し当該私事性的画像侵害情報等を示して当該私事性的画像侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会したとき。
三 当該発信者が当該照会を受けた日から二日を経過しても当該発信者から当該私事性的画像侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。
簡単に纏めましょう
一. 被害者から、「名誉が侵害されて、リベンジポルノ防止法に当たるから、削除してくれ」と要望があった時に
二. 削除に同意するかどうかを発信者に照会して
三. 二日を経過しても同意しない旨の申し出(反対)が無かった場合
は、削除しても責任を負わなくてすむ、ということですね。
普通は7日間待たなきゃいけないのに、2日間だけで削除出来るというわけですね。(前回記事の選挙に関わる場合と同じですね)
ガイドライン
この法律は事業者の膨大な責任を、「責任を負うのはここまでで良いよ」と制限してくれる法律なわけです。
ある意味で、事業者のための法律でもあるわけですから、その運用についてしっかりとしたガイドラインがあります。
(どんな時に削除してよくて、どんな時に削除してはいけないのかという議論)
前回も貼りましたが、このウェブサイトから関連情報を参照することが出来ます。
そしてここから検討協議会が検討したガイドラインに飛べます。
何度か同じことを書いていますが、これはあくまでガイドラインであり、法律ではありません。
裁判所の判断がこのガイドラインに異なる可能性もあります。しかし重要な指針であることは確かでしょう。
ということで、ガイドラインを読んでいて幾つか興味深い項目があったのでそれを記録しておきます。
賠償責任に関するあれこれ
P3. 運営者に常時監視責任義務は無い。(これめちゃくちゃ大事!)
P4. 通報があっても、「他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由(以下相当の理由と言います)」がなければ、放置していても賠償責任を負わない。(この「相当の理由」の基準は後述されています。)
P4. 技術的に削除負荷なら放置の賠償責任を負わない。
P5. 必要な最小限度の削除について、どこが必要な最小限度なのかは個別具体的に考えてね(明言出来ないらしい、少なくともその発信者の該当投稿なら問題なさそう)
相当の理由に関するあれこれ
「他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由」、分からんよね。
これに関する議論が第二章になっています。
なお、このガイドラインでは権利の侵害を、訴えの多いであろう「個人に対するプライバシー侵害、名誉毀損」と「法人に対する名誉又は信用の毀損」の2つに分けて例示しています。それ以外の場合はガイドラインの対象にはなっていません 。(P7)
また、相当の理由についてですが、2つの意味を持っています(P8)
「削除しなければいけない相当の理由(3条1項2号)」
「削除してよい相当の理由(3条2項1号)」
とここでは分けます。
本来の定義はちゃんと条文を読んでね、こんな安易な文じゃないです。
ある程度は2つとも同じ意味を持っていますが、完全に同じではない可能性があることを考慮しておきましょう。
それでは、興味深い項目を見ていきましょう。
P7. 法務省(法務省人権擁護機関)からの削除依頼は、基本的に「削除してよい相当の理由にあたる」
(P8. 不祥事を告発する写真の削除依頼とか、そういうやばい濫用だと思われる特段な理由が無い限り大丈夫)
P9. プライバシー情報に当たるかどうかは、プライバシー関連法や判例を参考にする。
有名な「宴のあと」事件の判例より、
(1) フィクションであっても私生活として他社に事実らしく受け取られるおそれのある情報で、
(2) 一般人基準で他社に開示されたいものではない情報で、(住所・氏名もそう)
(3) 一般の人に未だ知られていない情報であること
がプライバシー情報の要件とされています。
また、被害者が公人や準公人、著名人である場合、表現方法等が適切であれば、違法性が阻却されることがある。
このあたりはプライバシー権に関する議論ですね。
氏名、連絡先等の削除要請
氏名・住所・電話番号は、基本的にはプライバシーな情報です。
その上で公人であった場合等を含め、それぞれどう行動するべきかの指針が書かれています。
対象が一般私人である場合 P10
氏名、勤務先、自宅の住所、電話番号が掲載された場合は、「削除してよい相当の理由にあたる」
載せられた電話番号が間違っていた場合は、迷惑行為であることから「削除してよい相当の理由にあたる」
ネット上でハンドルネームのみで行動している場合に、氏名などが開示された場合も「削除してよい相当の理由にあたる」
公表されていない電子メールアドレスの掲載も、「削除してよい相当の理由にあたる」
「最高裁第二小法廷平成15年9月12日判決」より、一般私人の氏名及び連絡先の公表を正当化することは困難と考えられる。
P11. 会社経営者については、商業登記簿謄本に代表取締役の自宅住所が必須で記載されることから、自宅の住所でも削除するべきでないと取り扱うことも考えられる。
対象が公人等である場合 P10
職務等で広く知られているわけではない住所・電話番号については一般私人の場合と一緒に取り扱うべき。
職務等で使われる事務所の住所や電話番号は、これに当たらない。
対象が犯罪関係者である場合 P12
住所の公開が正当化されるのは、そこが犯罪の実行場所である場合等に限られる。
基本的に電話番号や、自宅の住所等は正当化出来ないので、一般私人の場合と一緒に取り扱うべき。
対象が著名人の場合 P13
基本的に、自宅の住所・電話番号については一般私人の場合と一緒に取り扱うべき。
さて、疲れたのでこのあたりにしておきます。
様々な判例や判断基準があって、ガイドラインを読むのが楽しいですね。
次回では、引き続きガイドラインをまとめて行きたいと思います。
20/04/25 追記