登下校中の安全確保は誰の責任? (rush 20/08/16)
少しTwitterで気になる話題を見つけました。
幾つか論点があったのですが、一番議論しやすそうなものを抜き出して以下の論点となりました。
登下校中の安全確保の責任は、教師にあるのか、学校にあるのか、保護者にあるのか
といった問題です。教育関係の学校の責任については詳しくないし、気になったので調べました。
一応、備忘録として残しておきます。
いつもの注意書き:私は法学をかじって勉強している程度で、できるだけ間違ったことを書かないように意識はしていますが、法学徒でも法学者でも無く、その内容の正しさは担保出来ません。参考文献をたどる等自己責任で判断してください。
結論
結論から述べますと、登下校中の安全確保の責任は、教師、学校には無く、保護者にあり、学校・教師は見回り・付添の義務を負うものではない。というものです。
その根拠は以下の通りです。
根拠
1. 学校の管理権限の及ばない場所である
学校は、その管理権限の及ぶ所(学校の敷地内等)において、指導監督責任を負うこととなります。
通学路はその管理権限の及ばない場所であるので、基本的に指導監督責任を負いません。
2. 見回りの責任を負うとした条文・文科省通知等はない
学校・教師に対して通学路の見回り・付添を義務として要求した法令、文科省通知等はありません。
ここでは、幾つかの対策を行うように要求しています。おもに 以下のようになっています。
第1 地域における関係者との連携の強化
第2 通学路の安全典型の徹底と環境の整備・改善
第3 不審者等に関する情報の共有
第4 登下校時の児童生徒等の安全管理の徹底
①安全な登下校方策の策定・実施
②児童生徒等の登下校を地域全体で見守る体制の整備
③登下校のルートや時間などに関する警察との情報の共有
④登下校時の緊急事態(不審者事案)への対応に係る危機管理マニュアルの作成・見直し
第5 児童生徒等に危険予測・回避能力を身に付けさせるための安全教育の推進
とても長いので題だけを引用してきましたが、最も該当しうる第4項目でも、その内訳を見ると教員・学校に見回りをしろとは明示していません。
また、その中では何度も「保護者や地域住民と密に連携を取り」といった文言が使われており、学校にその主な責任を押し付ける意図が無いことがわかります。
3. 教師の勤務時間外である
もちろん、見回りを命じるなら教師の勤務時間外になり得ますよね。
勤務時間外の教師に見守りせよという職務命令を出すためには、緊急性が必要となります。
これを満たさないことは明らかですね。
仮に学校が登下校の見回り等の安全策を採る義務を負うならば、警備員や見回りの職員を雇う必要があるでしょう。
しかし、学校にも警備員が配置されないことも多い現状の予算状況等を見て、到底実現されるとは思われません。
また、ここまで行くならば明らかに担当するべきは警察であることが分かります。(実際、当然地域の見回り等は警察の業務の内であるのは言うまでも無いですね。)
4. 保険(災害共済給付制度)の適用は、法的な責任の根拠となりえない
通学途中の事故に、学校の管理官において生じたものに適用されるとする保険(災害共済給付)が適用されることから、通学途中の安全確保を学校の責任だとする誤解があるらしいです。
無論、そんな事はありません。
帝京大学文学部教育学科教授、浦野 東洋一(3)は以下のように指摘しています。
「共済」は「社会保険」の一種であり、「学校の管理下において生じたもの」とみなすという規定は、社会保険の制度技術的な、実務的規定であり、安全確保の責任の所在を示す法規定ではないと考えられる
このように、保険が対象としているから学校に責任がある、とはならないのであります。
学校が負うべき責任
以上の根拠より、登下校時の安全確保の責任について、学校に見回りの義務等があるわけでは無いことを明らかにしましたが、学校が完全に無責任なわけはありませんよね。
学校が負うべき義務・責任は何か、について少し議論します。
まず、学校保健安全法には以下のように定められています。
(学校安全計画の策定等)
第二十七条 学校においては、児童生徒等の安全の確保を図るため、当該学校の施設及び設備の安全点検、児童生徒等に対する通学を含めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導、職員の研修その他学校における安全に関する事項について計画を策定し、これを実施しなければならない。
(地域の関係機関等との連携)
第三十条 学校においては、児童生徒等の安全の確保を図るため、児童生徒等の保護者との連携を図るとともに、当該学校が所在する地域の実情に応じて、当該地域を管轄する警察署その他の関係機関、地域の安全を確保するための活動を行う団体その他の関係団体、当該地域の住民その他の関係者との連携を図るよう努めるものとする。
あくまで、地域と連携しながら、点検を行えといった内容のようです。先程までの議論と同様、登下校時に直接の保護を要求していません。
また、大阪地裁の判決で、登下校中に起きた交通事故について、学校に指導監督責任があったとして損害賠償を請求した事件で、棄却された事件があったようです。その記事(4)によると
「学校前の歩道は下校時に混雑し、自転車は危険を認識しつつも車道を走らなければならない。広がって歩くことを禁じる安全指導をしていれば事故は防げたばすだ」
とする遺族に対して、
判決で大阪地裁の坂本倫城裁判長は「高校は安全に関する指導をくり返し実施しており、安全義務が欠けていたとは認識できない」と判断。大阪府への請求を棄却するとともに、「バランスを失いやすい自転車の2人乗りを行ったことは被害者の過失にもなりうる」という被告側の意見を採用し、トラックの運転手と会社に過失相殺を行った分の賠償を命じた。
と判断しています。(しかし、大阪地裁の一つの判決だからか、私が調べた判例検索では判例原文を見つけられませんでした。まさか全く存在しない判例をでっち上げてこのような記事にはしないでしょうが、一次ソースを確認したわけではない事を添書しておきます。っていうか全ての判決に関する記事は事件番号も書いてくれ~!)
これらと、前述の文科省通知を踏まえて考えると、学校の負うべき責任のある業務は、「交通安全指導」や「登下校路の策定」に留まるのであって、これらの業務に著しい怠慢(法的には故意や重過失)が無い限り、学校に損害賠償請求を求めることは難しいでしょう。
また、そのような事案はなかなか考えにくいですよね。(むしろあれば損害賠償請求を受けて当然でしょう。)
終わりに
このように、基本的に登下校時の安全確保という意味では、学校が主な責任を負うわけではなさそうです。
ちなみに余談ですが、調べていて面白かったのが、フランスのお話です。
どうやら定時になれば保護者が迎えに来て、学校はすぐに閉じて、先生も帰宅して、警備員だけが残る形になるそうです。
この際の安全確保の責任は当然学校にはなく、保護者が負っているらしいです。
治安や考え方の違いがわかり、面白いですね。
参考・引用文献