民法:民法Aゼミ第二回事例問題 (ryu-ho/20/11/17)
約半年ぶりに記事を書くわけですが、今回は財産法のゼミ(明日20/11/18)で扱う事例について検討します。事例について僕の考える過程なんかを文章に起こしていきたいと思います。記事の性質上(実際に自分で事例について考えながら、その考えたことを記述するので)どうしても読みやすくはならなさそうですが、最低限読めるものにはしていきたいですね。
取り敢えず問題の事例はこちら。
https://gyazo.com/b6e88875047ce6c4b4fd221b2dc834b3
まぁ登場人物多いのが面倒ですね。あとどうしてこうも民法ワールドの住人は所有権移転登記をしてくれないんでしょうか。事例問題を読むたびにそんな愚痴を言っているような気がします。
https://gyazo.com/c6f21fc655fd996d85dd2c55d4991cd4
どうやら私はCの立場からどういう主張ができるか検討しなければならないようです。まぁCの立場から~というのは一旦後回しにして、取り敢えずは事例全体について検討します。さっそく考えていきます。
AB間詐欺取引による売買契約について
分かりやすいように時系列順に考えていきましょう。まずAB間でAの所有する土地甲について詐欺による売買契約がなされるところから本件事案はスタートします。
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
本文に直接「Bの詐欺に遭い」と書いてあるので、詐欺による意思表示のめんどくさい要件達は無視して、いきなり民法96条参照。
事案は第三者による詐欺ではないので2項は無視。
AにはAB間土地甲売買契約の取消権がある。
当該売買契約が詐欺によるものであることについて善意無過失の第三者には、取消の効果を対抗できない。
事例問題として出題されている以上、当然ながらこのあと第三者が登場します。
第三者Cの登場
Bと土地甲の売買契約をすることで第三者Cがこの物語に参戦します。
CがAB間詐欺取引について善意であるか悪意であるかは不明。
所有権移転登記はなし(土地甲はB名義のまま)。
このとき未だAはBの詐欺に気づいておらず、取消権の行使をしていない。Cは詐欺取引の当事者ではなく、(恐らく)A又はBの包括承継人ではないので、あとは善意無過失なら保護されそう...?いや、しかしCには登記がない。
<論点1:96条3項の第三者として保護されるためには登記の具備が必要か>
結論:登記は不要。
第三者は詐欺に遭った表意者とは前主後主の関係にあり、対抗関係に立たないので対抗要件としての登記は不要である。
詐欺に遭った表意者にも落ち度はないわけではなく、(特に強迫と比較すれば)帰責性が認められるので表意者保護の必要性は低い。よって権利保護要件としての登記も不要と解するべきである。
*参考<判例:最判昭49.9.26>
どうやらCは善意無過失でさえあれば保護されそうですね。
AB間売買契約のAによる96条取消
やっとAが詐欺に気づいて96条3項を根拠に取消権行使しました。
Cが善意無過失であれば、取消の効果をCには対抗できない。
所有権移転登記はなし(土地甲はB名義のまま)。
ここで登記を戻さなかったことで、後々面倒になりそうですね。
BD間土地甲売買契約
登記がBのままになっているのをよいことに、BはDに土地甲を売ってしまったと。Aの怠慢がDを事例へと巻き込みました。
真の所有者がBではないことについて、Dの善意・悪意は不明。
所有権移転登記はなし(土地甲はB名義のまま)。
DはAによる取消権行使の後に利害関係に入った第三者と言える。
<論点2:詐欺取消後に利害関係を有するに至った第三者を常に保護しないとなれば、取引の安全を著しく害する。一定の場合にはそのような第三者を保護すべきであるが、そのための法律構成を如何に解すべきか>
{177条説(大判昭17.9.30)}
結論:詐欺に遭った表意者と取消後の第三者は対抗関係に立ち、対抗要件を先に備えた者が優先する。ただし第三者が背信的悪意者の場合は保護されない。
取消の遡及効は法的な擬制に過ぎず、取り消されるまでは取り消すことができる行為も有効であるから、取消の時点であたかも所有権の復帰があったのと同様に扱うことができる。そうだとすれば詐欺取消しの相手方を起点とする二重譲渡があったのと同様に解することができる。
取消権を行使した以上、これによる法律関係の変動は迅速に公示し、取引の安全(不動産取引全体の安全性・確実性)を図るべきであって、これを怠る者は不利益を受けてもやむを得ない。
登記の有無という画一的基準で優劣を決する方が不動産取引秩序の安定に資する。
批判①:取消前の第三者には遡及効を認めながら、取消後の第三者についてのみ取消の遡及効を貫徹しないことは矛盾する。
←反論:取消の前後では状況が違う。
批判②:取消後の第三者は悪意であっても登記を具備すれば保護されることになり、不当である。
←反論:登記と実体のずれを放置した者は、不動産取引全体の安全性・確実性を害している点で罪深く、不利益を受けてもやむを得ず、悪意者に対して劣位に立たされるのもやむを得ない。
{94条2項類推適用説}
結論:94条2項を類推適用する。
取消の遡及効に適合的である。
第三者の善意・悪意や過失の有無を考慮したきめ細やかな調整ができる。
批判:非欺罔者には虚偽の外観を作出したものほどの帰責性はなく、94条2項を類推する基礎を欠く。
第九十四条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
とりあえずAとDはどちらも登記を持っていないので、177条説ならばこの後先に登記を取得した者が優越することになります。94条2項説をとるのは個人的に難しいと考えていますが、もし同説に立つならばDには善意が要求されます。
Aによる登記名義の回復
取消権行使から期間を空け、Aがやっと登記を回復します。
論点2において177条説に立つならば、AD間の関係では土地甲の所有権はAが取得することになる。
論点2において94条2項類推適用説に立つならば、Dが善意であればいずれにせよAが土地甲の所有権を取得することは出来ない。
177条説から仮にAD間でAが優越したとしても、AはAC間において(Cが善意無過失ならば)劣位にあるのでいずれにしても土地甲所有権を取得できない。
<論点3:94条2項の第三者として保護されるためには登記を具備する必要があるか。>
結論:登記は不要。
第三者は真の権利者とは前主後主の関係にあり、対抗関係に立たないので対抗要件としての登記は不要である。
また虚偽の外観を作出した真の権利者の帰責性は大きいので、真の権利者保護の必要性は低く、第三者を保護すべきである。よって権利保護要件としての登記も不要と解するべきである。
Cが善意無過失である限り、Aが所有権を取得することはなさそうですね。しかしながら不動産登記は現在A名義です。
*整理
C善意無過失なら真の権利者はC
C悪意又は有過失で177条説なら真の権利者はA
C悪意又は有過失で94条2項類推適用説かつDが善意なら真の権利者はD
C悪意又は有過失で94条2項類推適用説かつDが悪意なら真の権利者はA
ん?これ94条2項類推適用説でC善意無過失、D善意のときどっちが所有権取得するんですかね...?いや僕はそもそも177条説に立つので無視してかまわないんですけど。BによるC所有の土地甲他人物売買とみるのか、CDが対抗関係に立つものとして177条で決するのか。釈然としません。結局この後CもDも登記を備えないので、177条で決すると言っても決せないですし、他人物売買ならBD間の契約は物権的に無効、しかし債権的に有効。BはCから土地甲を購入してDに引き渡す義務を負うことになる。しかしながらCより後に、それもAによる取り消しを挟んで後に利害関係に入ったDが土地を手に入れていいんでしょうか。何より論点2が無視されることになるのが不自然です。
AがEに土地甲について代物弁済
やっちまいましたね。AE間について詳細な関係は明らかになっていませんが、とにかくAは代物弁済、Eに土地甲を譲り渡しました。
代物弁済は諾成契約。目的物の所有権移転と債務の消滅とは別問題であって、所有権移転の効果は代物弁済の合意成立時に生じる一方、債権消滅の効果は合意に基づき代物の給付が現実になされたときに生じる。
Aが真の権利者ならば当該代物弁済契約は何の問題もない。真の権利者がC又はDであるとき、AはEに他人物によって代物弁済したことになる。
他人物によって代物弁済をした場合、AはCから土地甲の所有権を譲り受けて、Eに引き渡さなければならない(561条類推適用)。
(他人の権利の売買における売主の義務)
第五百六十一条 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
他人物による代物弁済であるとき、Aはさらに有効な弁済をしなければEから土地甲を取り戻せない(民法475条)。
(弁済として引き渡した物の取戻し)
第四百七十五条 弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは、その弁済をした者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。
Aが他人物(土地甲)の権利をEに移転できないとき、契約は解除される(債務不履行→催告による解除541条)。
(催告による解除)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
Eは475条によってさらに有効な弁済を求めるのに対して、Aは民法545条により解除に伴う現状回復として土地甲の返還を求める。この場合,民法546条の類推によって,有効な弁済請求と目的物の返還請求は,同時履行の関係に立つ。
(解除の効果)
第五百四十五条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
(契約の解除と同時履行)
第五百四十六条 第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。
(同時履行の抗弁)
第五百三十三条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
Aではない真の所有権者が所有権を根拠に返還請求をしてきた場合は、Eは同時履行の抗弁権では対抗できない。
475条は債権者に留置権を与えているのだと解すれば、Eは真の所有権者による返還請求に対して295条を根拠に留置権の抗弁権を主張できる。
(留置権の内容)
第二百九十五条 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。
https://gyazo.com/af4f23f595a22af669f100f412fc976e
この図はなんか拾いました。分かりやすかったので。
Cの主張
結局、Cはどういうことが言えるのでしょうか。流石にAB間詐欺取引について悪意又は有過失だとどうしようもないので、善意無過失を前提に考えます。
論点2において177条説に立つので、AD間はAの勝ち、一方AC間はAがCに取消の効果を対抗できないからCが真の所有権者である、と言えそう。
真の権利者としてEに土地甲の返還請求をしても、留置権の抗弁権を行使されうる。AE間の現状回復がなされるのを待って、Aに対して土地甲返還請求を改めてするしかないのだろうか。
仮にCが土地甲所有権を取得できないとき、何が言えるだろうか。難しい。今日はもう寝よう。
というわけで久しぶりに書いた記事はこんな感じです。この事例についてゼミ後にもう一度記事を分けて書くかも。