民法:民法Aゼミ第二回事例問題・振り返り (ryu-ho/20/11/17)
前回、久しぶりに記事を書いたかと思いますが、今回はゼミを踏まえての同時例についての振り返りです。ゼミで改めて、あるいは新しく学んだことや考えたことなどを記述していけたら、と思います。
前記事で僕がした議論や法律構成について
言ってしまえば、基本的に僕がCさんの立場から組み立てた主張が他のゼミ生や先生に覆されることはありませんでした。まぁ明らかにCだけイージーモード、というかDとEがハードモードだったのでそれはそうかなという感じです。どの視点から考えてもC以外が土地甲の所有権を取得することはなさそうに見えました。
また僕の知らない法理や学説が出てくることもありませんでした。基本的に総則と物権メインで話が進み、債権法についてはあまり触れられずにタイムアップという感じでした。明らかに損害賠償請求の話するように事例作られてたんですけどね。まぁ債権各論未修なので、あまり深く突っ込まれても大変だったかもしれません。ちなみに損害賠償は債権総論の方の範囲で既修なのですが、僕は細かい論点までは記憶できてないです。
他のゼミ生の主張とそれに対する僕の応答
Eさん視点からはそんなに多くの主張がなかった上に、あんまり僕もよく覚えてません(メモしろ)。というわけでDさん視点から出た主張について検討してみます。
Dについて96条3項適用説
DさんはAさんによるAB間売買契約取消「後」に利害関係に入った第三者です。通常、96条3項「第三者」の射程は取消前に利害関係に入った当事者・その包括承継人以外の者と解されます。しかしながら条文で直接そういった限定がされているわけではありません。
では取消前と後でなぜ扱いが変わるのか。それは96条3項の趣旨が「取消による遡及効から第三者を守る」ことだからです。詐欺による契約は被欺罔者の訴えにより取消すことができます。取消が行われれば、契約は初めから存在しなかったのと同様の効果が生じます。逆に言えば取り消されるまでは有効なのです。取消権の行使を要する点で、取消は無効と異なります。
つまり本事例でいえば、CさんがBさんと行った売買契約時点で土地甲所有権はBさんにあり、確かに有効にCさんへと移転したのです。それがAさんが取消権を行使することによって、後から「BさんはCさんと[の売買契約時、土地甲の所有権を有していなかった」ことにされる。そんなCさんを善意無過失ならば保護してあげようというのが96条3項の趣旨です。
ではなぜDさんが96条3項の射程外なのか、もう分かると思います。DさんがBさんと売買契約をしたとき、既にBは土地甲の所有権を有していないのです。無論、Dが完全に保護されないわけではありません。177条説と94条2項類推適用説とで保護のための法律構成について学説の対立がありますが、あくまでも96条3項の適用場面ではないと言っているに過ぎません。
というわけで96条3項適用!と主張した古川君は悔い改めてください。
Dについて94条2項類推適用説
前回の記事でもこの立場は説明しました。ゼミではD主張グループ、古川くん以外のお二人がこの主張をされました。本事例だと177条説に立つとDさんは確実にAさんに負けてしまいますから、当然の主張ではあるでしょう。
ただ残念ながら94条2項類推適用説は(僕に言わせれば)間違っています。この学説は①論理的にも、②帰結から考えても、誤っています。
まず94条2項の趣旨は何か。それは虚偽の外観を信用して取引関係に入った第三者の保護です。そして、真の権利者には虚偽の外観作出について帰責性があることも必要とされます。例えば94条2項の適用場面である通謀虚偽表示については、真の権利者に帰責性があるのが言うまでもなくわかるかと思います。
では本事例のAさんについてはどうでしょうか。94条2項の適用場面や類推適用場面と同視し得るほど、あるいはそれに準ずる程の帰責性はAさんに認められるでしょうか。Aさんにそこまでの帰責性はないと考えるのが妥当でしょう。Aさんは確かに登記の修正を怠ったかもしれない。その意味で帰責性が全くないとは言えません。しかし通謀虚偽表示と同視し得るほどの帰責性とまでは言えないでしょう。
また94条2項類推適用説を採る場合、Dさんは善意なら保護されることになります。無過失は要求されません。例えば本事例において仮にAさんが取消後すぐに移転登記をし、その後Dが登記簿をチェックせずにBさんから土地甲を買い受けたとしても、Dさんは善意なら保護されることになります。一方Cさんは96条3項の保護対象であるので、善意無過失まで要求されます。取消前に利害関係に入ったCさんが善意無過失まで要求されて、取消後に利害関係に入ったDさんは善意で足りる。帰結に欠陥があるのは明らかではないでしょうか。
まとめ
ここまで書いて僕は思いました。「条文の趣旨、めっちゃ大事やん。」って。そうなんです。大事なんです。条文の趣旨を理解していなければ、誤った解釈・誤った場面への類推適用をしてしまうのです。条文の趣旨、趣旨となる法理はしっかりおさえておきたいですね。
因みに前回の記事で書いてなかったんですが、Cさんはもし土地甲の所有権を取得できなければどういう主張をするのでしょうか。まぁ当然Bさんへの損害賠償請求でしょう。Bさんの履行不能が原因なので催告なし解除もできますね。損害賠償額の算定基準時は原則として履行不能時です。事例には土地甲の値段が騰貴後下がったとは書いてないので、あとはBさんが土地甲の価格騰貴を予見すべきだったと言えれば、騰貴価格を基準に損害賠償できるのではないでしょうか。この辺の話はゼミではできませんでしたが。
というわけで本記事は以上です。