進化計算による実世界システムの最適化
「進化計算による実世界システムの最適化」というタイトルで,私がここ2,3年の間にかかわった進化計算を用いた複数の実応用研究について,公知の内容をまとめて紹介させていただきました.
まず,物流に対する進化計算の適用事例です[1-3].複数の配送センターにどの商品を在庫すればよいかを多目的に最適化しています.つぎは,オフィスビルにおける制御パラメータの最適化に対する進化計算の適用事例[4-6]です.空調,照明,換気設備の制御パラメータについて,消費電力や快適さなどの観点で多目的に最適化しています.また,その他,2つほどの応用事例もご紹介いたしました.
これらの経験や私見を述べさせていただきました.(1)進化計算による実世界システムの最適化は,シミュレータを評価器としてすぐに最適化できるため,現場の専門家と進化計算の専門家の相互理解にかかる時間を最小にでき,初期的な結果を早く得られるとお話しいたしました.進化計算は,評価器をブラックボックスとして扱えるため,究極的には,シミュレータの入出力だけ打ち合わせれば良いとお話ししました.また,(2) 多目的最適化だと,機械(コンピュータ)と人間の関係が良好になるとも申し上げました.単一目的最適化の解はひとつであるため,コンピュータが人間に,これを使えという構図になります.コンピュータに意思決定権がある構図は,受け入れられづらい現場があります.一方,多目的最適化の解は複数であり,コンピュータが複数の解を導出し,人間にどれが一番良いかは示しません.コンピュータに意思決定権がない構図で,人間に意思決定権があることで,現場が受け入れやすくなる事例が多いです.また,(3) 進化計算は,意外と現場で試されておりますが,失敗し,その結果,「進化計算がNG」というレッテルが貼られていることがあるとお話ししました.たとえば,解の表現法ひとつで,進化計算の効き方がかわるなどあり,専門家の介入がしばしば必要であると実例を交えてお話しいたしました.最後に,いくつかの実応用を経験した結果,(4) テスト問題を用いた基礎研究の蓄積は相当に役立つとお話ししました.実問題に取り組んでいると,「過去にぶつかったテスト問題で起きた事象に似ている」ということに頻繁にぶつかりまして,テスト問題でアルゴリズムの基礎研究をすることの重要性を経験からお話しいたしました.
質疑応答では,最終的に選ぶのはひとつの解であるにもかかわらず,なぜ実世界の最適化問題を多目的にして解くことが良いのか,といった議論がなされました.議論としては,私がお話ししたこと以外として,そもそも真に求められる目的関数を設計することが難しいため,それに関連する設計しやすい目的関数を複数用意することがあるといったことが話されました.
[2]三井 康行, 山越 悠貴, 佐藤 寛之, “進化計算による在庫配置最適化,” 進化計算学会論文誌, 2022, 13 巻, 1 号, p. 66-76, 2022.
[3]Yasuyuki Mitsui, Yuki Yamakoshi, and Hiroyuki Sato, “Evolutionary Real-world Item Stock Allocation for Japanese Electric Commerce,” 2022 IEEE World Congress on Computational Intelligence, pp. 1-8, 2022.
[4]日経トレンディ “ZEB (net Zero Energy Building)実現を,舞台裏で支えた技術を探る。”,2022年3月号,2022.
[5]Kohei Fukuhara, Ryo Kumagai, Fukawa Yuta, Shinichi Tanabe, Hiroki Kawano, Yoshihiro Ohta, Hiroyuki Sato, “Digital Twin Based Evolutionary Building Facility Control Optimization,” 2022 IEEE World Congress on Computational Intelligence, pp. 1–8, 2022.
[6]Naru Okumura, Yoshihiro Ohta and Hiroyuki Sato, “Solution Archive and Its Re-use in Evolutionary Many-objective Facility Control Optimization,” 2022 Joint 12th International Conference on Soft Computing and Intelligent Systems and 23rd International Symposium on Advanced Intelligent Systems (SCIS&ISIS2022), 2022.