バルトの記号学
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例えば、「さくら」という記号表現には、みなさんがお花見のときに見る実際の桜という記号内容が対応しています。
この当たり前の事実を記号学的にはむずかしく、「表示義(ディノテーション)」といいます。
表に示される義(意味)と書いて「表示義」です。
しかし、「さくら」という記号表現には、字義通りの意味以外に重なって意味が表現されます。
例えば、はじまり、別れ、ニッポン、めでたい、短い人生、優美な女性、等々。
これを記号学的に「共示義(コノテーション)」といいます。
共に示す意味と書いて「共示義」です。
私たちが生活の中で記号表現を見るとき、これらふたつの意味を同時に受け取っています。
「This is a pen.」という記号表現を見るとき、「これはペンです」という意味(表示義)を受け取ると同時に、「これは英語の例文です」という意味(共示義)を重ねて理解しています。
この二重性を言葉だけでなく、人間が認識するもの全てに適用したものが記号学です。
例えば、ドラえもんの登場人物であるのび太くんの表示義は、のび太くんそのものです。
では、共示義はどうなるかというと、メガネは「文化系」を、やせ体型が「弱々しさ」を、年中半ズボンが「こども」を、常に昼寝が「のんびり屋」を、だらしない動きや姿勢が「駄目」を意味しています。
ジャイアンの丸太のような身体が「強さ」を、スネオのリーゼントが「見栄っ張り」を、しずかちゃんの年中お風呂が「女の子」を共示しています。
自分自身の容姿や服装、動きや姿勢、声のトーンや目つきが、何を共示しているか、客観的に見てみるのも面白いでしょう。
共示義の重層性
しかし、現実には共示義は何重にも意味を重ねて把握されており、そう単純なものではありません。
例えば、上の英文の共示義の上にさらに共示義が重なって、お笑い好きの人には「常套のネタ」という意味が受け取られたりします。
「This is a pen.」
これはペンです。(表示義)
これは英語の例文です。(共示義)
これは笑いのためのネタです。(共示義の共示義)
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続く
意地悪な人なら、しずかちゃんの年中お風呂の共示義である「女らしさ」の上にさらに共示義を読み取って「あざとい」と受け取るかもしれません。
優しい人なら、のび太くんの「駄目」や「のんびり」の共示義の上に「人間らしい愛すべき人物」という共示義を読み取るかもしれません。
表示義はかなりの程度で皆に安定して理解されうるものですが、対して共示義は社会や文化、受取る人の主観や状況に依存する、相対的で不確定なものです。
例えば、一昔前の日本では、ユニクロの服の共示義は「ダサイ」「プアー」でしたが、当時でも一部の途上国では「カッコイイ」「リッチ」という共示義として読まれていたわけです。