アメリカ法の基礎と概説:質問とコメント2024
私自身、・・・裁判官が新たな法を創っているというイメージを抱きました。日本は、国家会が法律を創り、裁判所に違憲審査権があるように、権力が分立されていますが、英米法において、裁判官の権力が強すぎるというような問題はあるのでしょうか。
Y. Nakamura.icon : 特に2022年のDobbs v. Jackson Women's Health Organization判決において、女性は妊娠中絶を選択する合衆国憲法上の権利を有するとしたRoe v. Wade判決(1973年)を覆した後、合衆国最高裁判所やその裁判官に対する批判が強まっています。
人の支配は主権者と臣民が命令、服従の関係にあり、これのデメリットが①恣意的になってしまうこと、②世襲であることをあまり聞いたことがなかったので勉強になりました。
法治主義は知っていたのですが、デメリットとして、多数者の専制になるということをあまりくわしく知らなかったので勉強になりました。
Y. Nakamura.icon : 「多数者の専制」は、J. S. ミル『自由論』の中にも出てきます。
アメリカの司法試験がどのようになされているのか。判例が法典化されているため、日本のように法典を見ながら試験を受けられるのであれば、日本よりも楽に試験を受けられるのではないかと思ったため。
Y. Nakamura.icon : アメリカでは、日本の六法全書にあたる本がそもそも存在しないため、残念ながら、司法試験のときも参照することができません。
法律を解釈・適用した判例という見方しかできず、判例はそれぞれ背景となる事情が異なるため、それぞれに合った判断をするものであるとの自分の中での理解がじゃまをして、判例が法になるということが想像できません。
Y. Nakamura.icon : 共謀共同正犯や譲渡担保は日本における判例法といえるものだと思います。この2つを理解するのが難しいというのであれば、民法177条における背信的悪意者の排除はどうでしょうか?
民法は刑法よりもさらにそれぞれの事案が異なることが多いと思うので、英米法における民法はどれくらいの条文数あるのか気になりました。
Y. Nakamura.icon : カリフォルニア州民法典は、全部で9,566条もの条文数があります。
英米法の下では、裁判官の役割が社会の中で生ける法を発見するということであると学びましたが、これでは裁判官の独立が守られないのではないか疑問に思いました。
Y. Nakamura.icon : 裁判官の独立は、政府が裁判官を首にしたり、その人事に干渉したりする場合に侵害されるのではないかと思います。
移民・難民を選挙に利用するSNSの広告等で、アメリカの〇〇地域は子育てにうってつけ!等の情報を政府が流し、そこに移民・難民を集めた上で、・・・候補者はこれに適切に対応している・・・と聞いたことがあります。質問として成り立っているのか疑問ですが、法の支配と人の支配を切り離して考えることができるのか、よくわかりませんでした。
成文法としてあらかじめ定めておくには、時代が進むほど技術の変化とともに新たな問題が生じることから、将来を予測できない以上、かなり無理があるのではないか。そこで、日本も一部判例法主義を採用するのなら、成文法よりも判例を重視することで問題の解決を簡易なものにすべきではないか。しかし、成文法がおろそかになってしまうことで、法律の文言(原則)が判例(例外)と逆転してしまうおそれもあるため、原則をどこまで重視するかという点のおとしどころが難しいと感じた。
Y. Nakamura.icon : 日本では制定法主義を原則としつつも、「判例つき六法」にみられるように、もうすでに判例がルールとなることを認めているのではないでしょうか。
第2回(10月1日)
日本においては、それぞれの地域が各々必要な事項を決める(立法でつくられた法律をもとに)地方自治制がとられている。しかし、アメリカではそれぞれのステイトが主権をもっており、さらに、それをまとめる連邦自体も主権があると知った。この違いから、アメリカの教育はどのような制度になっているか気になった。すなわち、日本では、国が義務教育として必要最小限度このようなマニュアルに沿って教育してね、という大枠を決め、その下で地方はこれに従う(裁量は多少あれど)という仕組みになっている。アメリカで、連邦での教育についての取り決めがあったとして、それぞれのステイトは連邦の決めた大枠に従う必要があるのか?それとも、それを下回らなければよいのか?
Y. Nakamura.icon : 合衆国憲法第1編8節の連邦議会の権限には「学校」や「教育制度」という言葉がありませんでしたね。つまり、教育は各州の権限であり、全米的な教育制度は存在しないということになります(義務教育の年齢も州により異なる)。しかし、1980年代以降の教育改革の流れにより、1994年のアメリカ教育法(Goals 2000: Educate America Act of 1994)により全国共通の教育目標が定められ、連邦政府からの補助金(第1編8節1号の支出条項に基づく)を受け取っている学校は、連邦政府の定める基準を充たす必要があります(No Child Left Behind Act of 2001)。
参考: 「教育―教育制度」(アメリカンセンター)
日本総合研究所「諸外国の教育施策に関する文献調査報告書」第2編 第1節 アメリカ(2007年)
佐藤仁「アメリカの教育課程」(2013年)
アメリカでは一部の州で中絶を禁じており、これが大きな問題となっている。その理由が「宗教上の教えにもとづく」とされていても、そのせいで女性の人権が守られないおそれがあるのではと思った。宗教は人々の思想を反映し、宗教を守ることは人々の思想の自由市場を国から侵害されないことだと思う。ただ、「宗教」をたてまえにすると、ある意味人から自由をうばいかねないのではないでしょうか。
Dobbs判決それ自体は、「宗教」を理由にしてはおらず、「中絶を行う権利は、この国の歴史と伝統に深く根ざしているわけではない」と述べられています。
強い権力のある政府もよくないが、権力がなさすぎると国を発展させたり統制したりすることが難しくなるためよくない、と知りました。そして、政府の権力をどの程度認めるべきかはとても難しい問題と感じ、とても興味がわきました。
Y. Nakamura.icon : 合衆国憲法が制定されるときの議論が収められた、『ザ・フェデラリスト』という本がありますので、一読をお薦めします!
連邦政府の決定と州政府の決定、判断が異なるようなことは生じるのでしょうか。生じる場合にはどのように解決がなされるのでしょうか。
Y. Nakamura.icon : 連邦と州の判断が矛盾する場合は、次の3つのケースが考えられます。①州にその事物を管轄する権限があり、連邦にはない。②連邦に権限があり、州にはない。③州にも連邦にも権限がある。③の場合、連邦法が州法に優先します(第6編2項)。詳しくは、樋口範雄『アメリカ憲法』177頁以下(弘文堂、2011年)などを見てください。
州政府と連邦政府がどちらも主権国家であったるということに驚きました。・・・この2つの主権国家はよく内戦とかにならなかったなと不思議でした。
Y. Nakamura.icon : 奴隷制度の問題をめぐる北部と南部の争いから、内戦(Civil War)すなわち南北戦争となったことは知っていますね。この戦争は、連邦を脱退し、新たに南部連合を結成した南部諸州と、連邦にとどまった北部諸州との戦い(リンカーン大統領は、南部諸州が連邦を脱退することを認めず、連邦に対する叛乱であるとした)という形をとりました。
また、1963年にアラバマ州における公立学校の人種統合に州知事が強硬に反対し、州兵を動員したこともありました(このときはケネディ大統領がアラバマ州兵を合衆国の軍隊に組み入れる、つまり州知事ではなく大統領の命令に従うことになるという決定を下しました)。
憲法制定の背景を知ることはとても楽しく、おもしろかったです。・・・合衆国憲法[第1編]8節各号、9節各号のように、権限と行ってはならないことが詳細に記載されていること、・・・合衆国ができた後でもstateの軍隊が解散されなかったこと・・・日本では考えられないことだったため、アメリカが国として維持しているすごさを感じました。
アメリカが連邦制である理由が、イギリスから独立した経緯が関係するのが興味深いと思った。
①連合規約の剣と財布の問題について、国際連合が同じことをしているのならば、同様の問題を国際連合は抱えているのではないか。
Y. Nakamura.icon : はい、特に分担金の未払いの問題は深刻であると言われています。
鷲尾香一「実質破綻『国連』分担金制度いまこそ見直しを」(フォーサイト、2019年11月)
また、軍隊に関しても次のような論文もあります。
②アメリカは周囲の植民地に攻められたら負けてしまいそうな弱い国のように感じたが、それから70年後くらいのペリー来航の際にはとても強いように感じられるが、その間にアメリカが強くなった原因は何か気になった。
③大きな政府と小さな政府という概念があるが、アメリカは小さな政府である。これは、アメリカが州と連邦のどちらも主権国家としていることに関連するのか(連邦政府が弱いことと関連するのか)。
Y. Nakamura.icon : アメリカの連邦政府はもともと「制限された政府」ですから、「小さな政府」であることは明らかです。しかし、(3回目の授業でも少し説明するつもりですが)アメリカの歴史的発展は、連邦政府の権限が増大していく歴史でもありました。「オバマケア」(アメリカ版の国民皆保険制度)の合憲性が連邦最高裁判所で争われたように、連邦政府がある行為をする権限があるかどうかが常に問題となってきました。
第3回(10月9日)
実体的デュー・プロセス:
以前、本学の上田先生の著書を読んだ際に、デュープロセス条項から新たな権利を導く要件が判例で出ていたと書かれていたと思うが、どのような解釈でそれを導いたのか。
Y. Nakamura.icon : Roe v. Wade判決は、「『基本的』または『秩序ある自由の概念に内在する』とみなすことができる個人の自由だけが個人のプライバシーの・・・保障に含まれる」(『アメリカ法判例百選』第47事件、96-97頁(有斐閣、2012年))と判示しましたが、そのルーツは、1890年代から1930年代まで、第14修正のデュー・プロセス条項を根拠に経済的権利を保護していたことにあり、それが本判決によって、プライバシー権(日本でいう「自己決定権」を含む広い概念)を保障する根拠として用いられたということになります。詳しくは、松井茂記『アメリカ憲法入門』(第8章第2節、有斐閣)や樋口範雄『アメリカ憲法』(第10章、弘文堂)を読んでみてください。
組み入れ理論:
[第14]修正[のデュー・プロセス条項]を媒介にして憲法の条文を州に適用できるようにしていった、とのお話がありましたが、それによって生じた問題はあるのでしょうか。アメリカは州ごとに独立しているため、疑問に思いました。
Y. Nakamura.icon : それまで州ごとに決められていた問題が、連邦の法律や判例法による統一ルールで規制されるようになったことで、「州の主権が侵害されている」と批判する人もいます。今回の妊娠中絶の権利が否定されたのも、その1つといえます。
選挙:
裁判所により違憲判決が出されたとしても、これにより政治部門を拘束する仕組みがないと理解したが、これで合っているか?日本では違憲と判断された法律が無効になるが、アメリカではどのような処理がされることになるか気になった。
アメリカでは、人種のほかに性別(特に女性)について選挙権保障が十分でなかった事実もあるのか?
Y. Nakamura.icon : はい、20世紀前半まで、アメリカでも原則として女性に選挙権は認められず、これを変えるために憲法改正が行われました(第19修正)。
自分の中で、アメリカの差別は人種によるもののイメージしかなく、性による差別があるイメージがないが、それはなぜか。
Y. Nakamura.icon : 最近のMe too運動や、トランプの発言にみられるように、アメリカでも女性蔑視(misogyny)の底流は存在します。ただし、ミシェル・オバマさんやギンズバーグ最高裁判事、アレクサンドリア・オカシオコルテス議員のように活躍している女性も多いので、女性差別のイメージが緩和されているのかもしれません。
なぜ黒人に対する差別は根深く残るほどであるのか。差別の対象が国ごとで変わる理由がなにかあるのか、とても気になった。
Y. Nakamura.icon : やはり、過去に奴隷としてアフリカから連れてこられたということ、その「負の遺産」によって政治的・社会的地位が低い状態が続いてきたことが差別の原因ではないでしょうか。最近では、9・11の後のイスラム教徒に対する差別や、コロナ禍のときのアジア系人に対する差別も問題となりました(特に女性が憎悪犯罪のターゲットになりやすいとのことです)。
日本人も人ごとではない! アメリカで広がるアジア系差別 女性蔑視と重なり深刻化(2021年4月24日)
米紙記者に聞く、アジア系差別の現状は 記者サロン開催(朝日新聞2021年9月18日)
マイノリティが投票できなくするために抑圧がかけられるという点について、圧力がかかることにより、独裁政治が生まれたりしないのかなと思いました。
Y. Nakamura.icon : 「リンカーンの党」から「トランプの党」に変貌した共和党は、州議会で投票を抑圧するための法律を多く通してきており、今回の大統領選の行方が注目されます。