アメリカ法の基礎と概説:質問とコメント2023
2023/9/19
質問:
英米法の弁護士の弁護活動はどうなっているのか?
法[律]がない英[イギリス]のほうが柔軟に事例に対応できるのではないかと思いました。というのも、法に書いてあることとは少しちがうとなったときは日本は法がないから無理となってしまうケースもある(あおり運転が流行した当時)もあるなと思い、英では判例[が]いままでない事件はどうやって解決するのか気になりました。今は新しい法律にすべて書いて定めるのでしょうか?
Y. Nakamura.icon :判例法の柔軟性についてはその通りだと思います。判例法のルールをもとに、拡張や類推、法意適用(笹倉秀夫『法学講義』参照)あるいは反対解釈を行うことがあります。
英米法をとる国と、大陸法をとる国とで、刑の種類や刑罰の重さ等に傾向性はあるか?ある場合、どのような違いが生じているか。
Y. Nakamura.icon :英米法諸国では、社会奉仕活動を義務づけるなど、いわゆるコミュニティ刑の導入が進んでいます。あとアメリカでは連邦と約半分の州が死刑を存置しており、ヨーロッパのすべての国が死刑を廃止しているのに比べると、大きな違いがあります。
英米法と大陸法とで、年に裁判が行われる数等に違いはあるか。両者で、裁判を行うことに対するハードルの高さに違いはあるか。
後者については、法律扶助の手厚さが関係していると思います。イギリスやその影響を受けたオーストラリア、ニュージーランドは、法律扶助が手厚いことで知られています。
弁護士の需要は、英米法をとる国と大陸法をとる国とで、傾向として違いはあるか。
どこかの機会で英米法における裁判の具体的な流れ等について学んでみたいと思います。
日本においても、法令の解釈は裁判所の判断にゆだねられていることも多く、やはり判例[法]主義的側面があることは否定できないのではないかと思いました。
英米法は、型にはまらないもので利点はあるものの、犯罪者の処罰などについてはあいまいで、一歩間違えれば応報刑法論などが働かず、秩序が乱されるのではないかと思いました。
Y. Nakamura.icon :英米法においても、犯罪と刑罰が不明確であれば、デュー・プロセス(適正手続)から導かれる、明確性の原則に違反することになります。
この授業を受けて、英米法・大陸法だけでなく外国法にも興味を持って調べてみるのもいいなと思いました。
Y. Nakamura.icon :近代法は、英米法と大陸法に大きく二分されますが、大陸法の亜種として社会主義国法、中世の特質を残す法制としてイスラーム法があります。これらについても、機会があれば調べてみてください。
国王が全ての権力を有していたことから、この濫用を防ぐために、国王の権力を制限した世界初の憲章がマグナカルタであり、国王であっても法により支配されるという体制が良くわかりました。日本におきかえると、象徴天皇制がこれに似ているように思いました。
Y. Nakamura.icon :国王が国家権力を独占するようになるのは近世に入ってからであり、中世の時代には、国王の他に、教皇や貴族も一定の実力を有しており、その葛藤(ぶつかり合い)の中でマグナ・カルタが生まれたのだといえるでしょう。また、象徴天皇制は天皇に実権がないですが、中世においては国王に実権がありましたので、これに相当するものを探すと、戦国時代の分国法である「六角式目」がよく似ているといわれます。参照:水林彪 「マグナ・カルタと六角氏式目:日本国憲法の歴史的起源を訪ねて」早稻田法學 92巻3号179頁(2017年) https://core.ac.uk/download/pdf/144467396.pdf 英米法を用いる国と大陸法を用いる国とで、法律に関する議論を行った場合に互いにどの点を譲れないものとして主張するのかが気になりました。
Y. Nakamura.icon :私の考えでは、「何を法の中心として考えるか」ではないかと思います。
英米法と大陸法では頭での考え方が全く異なるため、どちらかの考え方に引っ張られないことが大切であり、比較することで自分の国の運用、考え方を深く理解することができると考えた。
Y. Nakamura.icon :まったく違う視点で物事を考えてみることによって、自分のそれまでの考え方についてその妥当性を検証することができることになると思います。
共謀共同正犯をはじめ、これまで授業で習ってきた中で判例法のような考え方はあると思いました。
完全に思いこみで考えていたので、もう少し広い視野でもって一つ一つの分野を学んでいきたいと思いました。
また、法源・法典など言葉はよく聞きますがあまり内容を理解していなかった点について知ることができて良かったです。
歴史を学びながら法律を知るということも大事だと思いました。
Y. Nakamura.icon :1コマの授業の中で、いろいろな「気づき」があったようで、何よりです。
判例法主義の場合の判断の方法がまだ細かくイメージできないので、どの程度の共通性で同じような判断をしているのか、また、判例のすべてに目を通すとなるとかなりの数になるので、そのあたりをどうしているのか気になりました。
Y. Nakamura.icon :判例法主義においては、同じような先例を探してくることが裁判で勝つために決定的に重要になります。今は、コンピュータのデータベースやインターネットで調べられますが、昔は紙媒体しかなかったので、判例を分野、キーワードごとに分類・整理したDigestという本を使って調べていました。
また、古くなってきて時代に合わなくなったときなのはどうなるのかも気になりました。
Y. Nakamura.icon :裁判所が先例を変更したり、法律(議会制定法)で判例法を変更することが可能です。
判例法の場合、司法試験では何も持ちこまないのでしょうか?だとしたら判例法の方が難しい気がするのですがどうなのでしょうか?
Y. Nakamura.icon :みなさんも、よく使う条文の内容はほとんど覚えていると思います。重要な判例の中身を覚えなければならないのもそれと同じでしょう。
コメント:
日本の法制度[も]、アメリカ法由来という英米法の側面もあれば、ドイツ法由来といった大陸法の側面もあると思うので、比較して、それぞれの特性を学ぶことは日本法を理解する上でも重要だと思いました。
今まで法律を学ぶなかで六法の法典が存在し、その条文にあたって事例の解決を図ることの重要性を何度も耳にしてきたので、それが自分の中の法律といえば・・・な常識になっていますが、改めてイギリスのように憲法典、民法典、刑法典のいずれもない国があり、学習する際もまず判例が大事であったりすることを教えていただき、そのギャップがとても興味深かったです。
Y. Nakamura.icon :みなさんの常識を「揺さぶる」ことがこの授業の一つの狙いであると考えています。
判例法主義の国において、前例のない事件が起こった場合、どう処理をしていくのか気になりました。
すでにある類型に共通点を見出してあてはめるのか、全く新しい例として作り出すのか・・・このとき、裁判官としての責任はどのくらい重要なのか。また、憲法典がないイギリスの人々が何をルールとして捉えて何を参考にして個人の行動が法律で裁かれるのか判断しているのか気になりました。
日本の刑法に基づく罪責の検討とイギリス・アメリカにおける罪責の検討で手法や難しさに違いが出るのかとても興味があります。ケースブックによる検討も必ず同じ事件であるとは限らないと思うので、その判断はとても難しいものであるのではないかと思いました。
冒頭で、法律相談における弁護士の時給が1万円になるというのを聞いてとても驚きました。専門的な知識を要するものであり、それ相応の価値があるのだと感じる一方、やはり人々にとって気軽にできるものではないと改めて感じました。
Y. Nakamura.icon :弁護士になり高給取りになった場合に、今日の初心を忘れないでほしいと思います。
アメリカは凶悪犯罪や連続殺人が多いから多くの種類の殺人罪があるのだと思っていました。しかし今回の授業で判例法が基になっているからであると知り、とても納得できました。
英米法は判例法であると聞いていましたが、先例と具体的事件を直接結んで結論を導くことについて非常に新鮮に感じました。
一票の格差の例を丁寧に教示していただき、当事者意識を持てたと思います。
2023/9/26
連邦制:
よくニュースで耳にするのは、銃規制についてであり、州によっては反対派のところもあれば肯定派のところもあって、対立があることである。このことから、連邦制の仕組みはうまく運用されているのか、実際には、州の権限が強大で中央政府はもはや制御できていない部分も多いのではないかと思う部分もある。この中央と州との関係についても、もう少し詳しく知りたいと思った。
Y. Nakamura.icon :連邦制というのは、アメリカ全体で同じにするところと、州ごとに違ってもよいというところ、2つの相反する部分・方向性を持っているわけです。だから、ある出来事(例えば、2022年の最高裁判決が、「合衆国憲法は妊娠中絶の権利を保障していない」と判示し、妊娠中絶の可否について州議会で決められるようになったこと)についてどのように評価するかは、連邦を中心にして考えるか、それともあくまでも州が基本だと考えるか(州権論)によってわかれてくると思います。これまでの歴史を大まかにとらえると、連邦政府の権限がどんどん拡大してきたというのが大きな流れですが、その流れに反するような出来事も起こりうるということです。
アメリカ憲法の条文を見て思ったのですが、州や連邦で憲法での規定が異なるのなら、どうしてそれぞれ別の法律を規定していないのかを知りたいです。
また、アメリカでトランプ元大統領の時など、よく問題になっている堕胎の問題について詳しく知りたいと思いました。
Y. Nakamura.icon :州はそれぞれ別個の憲法を持ち、州議会が別の法律を制定しています。
妊娠中絶の問題については、ぜひ以下の本を参照してください。
小竹聡『アメリカ合衆国における妊娠中絶の法と政治』(日本評論社、2021年)
憲法改正:
アメリカ合衆国憲法の修正は「全50州の内4分の3以上の州議会の賛成」を得る必要があり、日本国憲法の改正に必要な賛成割合より多いにもかかわらず、修正が複数回行われていることを知りました。アメリカと日本で憲法修正の回数に違いがある要因は何か気になりました。
Y. Nakamura.icon :以下、2つの要因があると思います。①アメリカ合衆国憲法は18世紀、日本国憲法は20世紀に作られたものであること。日本国憲法はアメリカ合衆国憲法、大日本帝国憲法などいくつもの近代憲法を参考にして作られていますが、アメリカ合衆国憲法が作られたとき、モデルにすべきものは非常に限られた状態で、奴隷制など近い将来間違いなく問題になると思われる要素も含まれていました(第1編第3節、第1編第9節第1項参照)。②アメリカでは権利章典や南北戦争修正、18歳選挙権(第26修正)などどうしても必要がある場合に、憲法改正を行っていることです。日本の場合、9条と自衛隊との関係は確かに問題ですが、これまでは憲法改正なしに済ませてきましたし、それ以外の改正(例えば、自民党の「改憲4項目」に掲げられている緊急事態条項や合区の解消)はどうしても必要があるとはいえないように思われます。
権利章典について:
第9修正の人権についての一般条項は日本でいう包括的基本権(13条)のようなものでしょうか?
Y. Nakamura.icon :いいえ。第9修正は「新しい人権」の根拠とされたことがほとんどないと思います。日本国憲法の13条により近いのは、第14修正のデュープロセス条項で、この条文を根拠に「新しい人権」(妊娠中絶の権利など)が認められてきています(「実体的デュープロセス」の理論)。
また、第14修正で「その生命、自由または財産を奪ってはならない」と規定されているのに、判例法によって人権が認められたということは、成文法で認められても判例法で認めらなければいけないということなのでしょうか?
Y. Nakamura.icon :「生命、自由または財産」にどのような権利が含まれるかは、第14修正の文言からは明らかではありません。具体的な事件において当事者の主張する権利が認められるかは、裁判所の判断(つまり判例)を待たなければわからないということですね。
その他の改正条項について:
禁酒修正条項(修正18条)は、「酒類を製造し、販売しもしくは輸送し、またはこれらの地に輸入し、もしくはこれらの 地から輸出することは、これを禁止する。」としているが、本来公権力の専断的な権力行使による人権侵害を禁止するための規定が憲法であるはずなのに、国民に対して特定の行為を禁止する規定が憲法に書かれているのは疑問に思った。本来立法で解決するべきものではないのかと思った。
Y. Nakamura.icon :酒類の製造・販売の禁止は、本来、州法で規定すべき事項です。しかし、①州による異なった取り扱いを許さず、全国一律に禁止する、②本来、州の管轄する問題について、例外的に連邦が規制することを認める、という2点の理由から、合衆国憲法の改正が行われました。さらに、お酒を解禁する際にも合衆国憲法の改正が必要になりました(第21修正)。
その他:
アメリカやイギリスにおける裁判官は、法律の理解・解釈のみならず、何か特殊な能力を求められているのか?適切な判例を適用するにあたって、特別な訓練や、知識の量、またその信条などが問題になるのか?
Y. Nakamura.icon :法と良心に従って行動しなければならないことは、英米も日本も変わりません。英米に特徴的なのは、裁判官が法律家というコミュニティの中の大先輩・最長老である点にあります。したがって、裁判官から弁護士に対して、教育的指導が行われたり、ロール・モデルを示したりすることがみられます。
陪審制は英米では常識として浸透していると思うが、陪審員の質が問題となることはないのか?陪審員の判断を全面的に信用しているのか?日本でも裁判員裁判が導入されているが、一般市民が司法に参加することで、何か改善された部分はあるのか?一般的な傾向として見られるものはあるのか(より重い刑が判決で出されやすくなったなど)?
Y. Nakamura.icon :陪審制については、もちろん英米でも賛否両論ありますが、通説的見解は、Duncan v. Louisianaの法廷意見に述べられている通りです。
日本の裁判員制度については、以下の報告書が参考になります。
最高裁判所事務総局「裁判員制度10年の総括報告書」(2019年)
アメリカで法に触れる行為をした場合、さまざまな州の法律を比較して、自分に有利に働く州へ移動して実行に移す、というようなこともあり得るのか?
Y. Nakamura.icon :以前から有名なのは、大麻を合法化している州と、違法な州があるということです。
また、2022年の最高裁判決(Dobbs v. Jackson Women's Health Organization)後、妊娠中絶を禁止する州が出てきたため、これらの州から、中絶が認められる州に移動するということも起きています。
2023/10/3
判例の表記の仕方:
アメリカのような[判例の]表記の仕方はわかりやすいなと感じました。
日本のサイトからアメリカの判例データを見る方法はどのようなものがありますか?
Y. Nakamura.icon :次のようなサイトがあります。
1) Supreme Court of the United States: Opinions of the Court
アメリカ合衆国最高裁判所の公式サイトです。判決のpdf版(後で公式判例集のページになる)を入手できます。
2) Oyez
コーネル大学のサイトで、判決文の他(次のJustiaというサイトにリンクしています)、口頭弁論の音声ファイルを聞くことができます。
3) Justia
連邦最高裁だけでなく、下級裁判所、州裁判所の判決の大多数を収録した無料サイトです。
4) Findlaw
連邦最高裁および下級裁判所の判例、連邦法および州法の条文を無料で見ることができます。
陪審制:
陪審制についての考え方に関して、アメリカでは権力をもった政府等に任せきりにしておくと好き勝手にされる可能性があることから、市民らが自分と同じ立場の市民に監視させることによって専制と圧政を防ごうとしているのに対して、基本的に日本では自らはそんなに関心をもたずお上に任せておけばいいやとの考えがあり、種々の制度の破棄系に国民の考え方や意識の違いがあることが窺えて興味深かったです。
アメリカでは、歴史的な背景から役所や役人よりも仲間を信用しているということがやっと理解できたような気がします。今まで自分が当たり前だと思っていた価値観と全く違う価値観が根底にあり、非常に勉強になりました。
日本では、過去に刑事裁判の諸原則を守るという観点から、問題があるのではないかと憲法の問題として争われたことがありました。これと比較するとアメリカはむしろ国民(市民)にジャッジをしてもらいたいという感覚をもっているのだということを知り、こうした感覚の違いは歴史的背景も大きく影響しているのかなと思いました。
アメリカの陪審制が役所の人々ではなく国民を信頼するという国民感情が反映された制度といえ、地域性や国民性を裁判に反映させるという感覚が新鮮だった。一般市民が裁判において法的判断ができるか不安はあるが、一般市民の感覚が反映されることは地域に密着した納得が得られやすい裁判につながる利点は大きいと思う。
今回の授業によって、裁判員制度には国家権力の不正を防止する側面もあるのではないかという意識を持つことができました。
Y. Nakamura.icon :お役所(お上)と一般市民のどちらを信用するのかということは、アメリカと日本の政治的価値観の大きな違いであり、そのことが法制度にも影響していると思います。
アメリカの陪審制度は陪審員だけで評議して決めなければならずその過程で裁判官の助けがないところで、ある意味法律に関しては無知である市民のみによって、適切公正な判断がなされるのかとても疑問に思いました。
Y. Nakamura.icon :法律に関して必要な説明(説示)は、裁判官が行います。例えば、故意を認定するためには、どのような事実が必要か、といったことです。
陪審の最新かつ最も包括的な研究の内容が具体的にどのような内容の研究であるのかも気になりました。
Y. Nakamura.icon :判決文の脚注26には、次の文献が挙げられています。H. Kalven, Jr. & H. Zeisel, The American Jury (1966)
Duncan v. Louisianaは、人種差別の問題と関連していたのか、それとも陪審裁判を受けるという国民にとって重要な権利が侵害されたという事実のみに注目した判例なのか?
黒人と白人との差別が裏にあるという気がしました。「肘を突いた」ということが単純暴行罪となり収監されるという点について、本当に公正な刑事裁判が行われていたのか疑問に思いました。
Y. Nakamura.icon :事実関係から、この事件の起きた背景に人種の問題があることがわかります。しかし、最高裁では人種差別は問題にはならず、第6修正の陪審裁判を受ける権利を第14修正のデュープロセス条項に組み入れるべきかどうかが争点になっています。
以下の記事によると、差し戻し審で、裁判所は 嫌がらせおよび黒人コミュニティが公民権運動に関わるのをやめさせる目的でダンカンを無理に起訴したと認定し、公訴を棄却したとのことです。
Remeny White, The Civil Rights Significance of Duncan v. Louisiana and the Right to a Jury Trial, October 12, 2022,
陪審員の選出の際、その人の信条などは問題にならないのだろうか?そこまで介入することはその者の思想・良心の自由を侵害することになるため憲法の理念に反することになるのか?
Y. Nakamura.icon :信条として特に問題になるのが死刑についてどう考えているかということです。というのは、量刑は原則として裁判官が決定しますが、死刑を科すかどうかについては、陪審が決めなければならないとされているからです。死刑が科されうる殺人事件等において、「どんな事件でも死刑を科すことに反対する」人や、逆に「重罪にあたる謀殺罪ならば自動的に死刑が科されるべきである」と考えている人を陪審から排除することができるとされています。
デメリットとして裁判官と判断が一致しないという点が挙げられていた。よって市民投票等で選んだ司法の専門知識のある者や妥当な判断ができる者を陪審員にすればよいのでは、と思った。
Y. Nakamura.icon :陪審は、昔は裁判官に従属しており、裁判官の意に沿わない評決をした場合には、陪審裁判のやり直しや、偽証罪として処罰されることがありました。したがって、陪審が裁判官と違う評決ができるのは、歴史的な発展の成果であり、基本的にはメリットとして評価すべきことです。
早野暁「陪審の性格と証拠法」埼玉工業大学教養紀要29号33頁(2011年)は、日本の裁判員制度について、
「裁判官が指導権を確保できるように法令が整備されているのであれば、司法の判断過程の透明化という点では評価できるものの、民意の現実の反映という点では、かえって、国民の信頼を得られない結果となるのではないだろうか。」と述べています。
なお、法律の専門知識のある者を選挙で選ぶということは、州の裁判官について行われています。
選挙制度・「一票の格差」:
アメリカの州議会の選挙は、1000倍もの差が生じていたにもかかわらず、その状態を50年以上継続していたことに疑問を感じていました。授業内で、先生が違憲状態にあったけど、合理的期間が経過していなかったからと説明してくださり、とても納得しました。・・・これにより、日本はアメリカの判決の影響を受けて判断をしたんだと思いました。
Y. Nakamura.icon :いいえ、「違憲状態」と「合理的期間」というのは日本の最高裁判決の枠組みを説明したのです。
アメリカで「一票の格差」が改善されなかったのは、裁判所が違憲判決を下したにもかかわらず、州議会が何もしなかったからです。そして、「選挙区割は州議会の仕事である」と考えられていたため、裁判所もそれ以上介入することができませんでした。
アメリカには「事情判決の法理」(=違憲であるが無効とはしない)に相当する「表権公務員の法理(de facto officer doctrine)」というものはありますが、「合理的期間論」(=「違憲状態」であるが違憲ではない)に相当するものはありません。
日本も50年近く、一票の格差問題を放置することになるのでしょうか?
一票の格差の問題は、人口移動が激しい現在においては常に考えなければいけないことですが、国会が動いてくれないもどかしさが先生からとても伝わりました。
Y. Nakamura.icon :日本の場合は全く再区割をしないわけではなく、最高裁に違憲判決や選挙無効判決を下されないように、「一応は努力しています」というそぶりを見せる状態が続いています。しかしそれは結局のところ弥縫策(びほうさく=「お茶を濁す」)でしかないので、都道府県単位の選挙区をブロック制に改めるなど、抜本的な改革を行うことができるかが今後の鍵となるでしょう。興味があれば以下を読んでみてください。
中村良隆「参議院選挙において一人一票を実現するために:仙台高判令和4年11月1日判決の分析」
選挙制度については現在日本では若者の無投票が問題になっていますが、アメリカでは若者の投票率はどうなっているのかが気になりました。
Y. Nakamura.icon :アメリカでは、最近、若者の投票率が大幅に上がっています。以下の記事を読んでみてください。
授業全体の感想:
今回の授業は3回の授業の中で1番おもしろかったです。初めはアメリカ法に関心がなく理解が深まりませんでしたが、どんどん回数を重ねていくごとに興味が湧いて、こんなに楽しくなることに自分でもびっくりしました。今日の授業で私が面白いと思ったのは、アメリカは不統一国宝であるため州ごとに法律をめぐって違う争いがなされることです。・・・また、一票の格差という論点で実際の判旨を目にして問題意識について学べたのも楽しかったです。