デジタル配列情報(DSI)についてのまとめ(1)
2019年9月現在
デジタル配列情報(DSI)について
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1. デジタル配列情報の背景
2014年の生物多様性条約第13回締約国会議(COP13)1)では、遺伝情報を遺伝資源に含むべきという提案が、ナミビアおよびマレーシアの政府代表より提案され、途上国を中心に賛同が得られたが、先進国を中心とする反対により、決定自体は、事務手続きと今後の検討方法を決めた範囲でとどまった。
決定XIII/162)及びNP-2/143)で合意されたプロセスには、見解及び情報の提出、研究の委託、特別技術専門家グループ(エーティーエー)による作業、科学的、技術的及び技術的助言に関する補助機関による成果の検討、並びに補助機関による条約の第十四回締約国会議及び名古屋議定書の第3回締約国会議への勧告が含まれる。
2. 各国意見提出(2017)4)
事務局通知に対応し、各国(カ国)および各団体()が意見を提出した。各国の意見は、おおよそ、DSIは急速な発展を遂げており、科学の発展には重要である点、およびITPGRFA、UNCLOS、PIPなどと一貫性を持つべき、という意見は共通していた。しかしながら、DSIに関して、遺伝資源に含むべき、規制が必要という途上国側と、遺伝資源に含むべきでない、先進国側と両極に分かれるものであった。
3. 日本学術会議の提言5)
日本学術会議において、生物多様性条約及び名古屋議定書の目的の達成には、デジタル配列情報の公的データベースへの迅速な登録と自由な利用が必須である。この観点から、我々は日本国政府が 2017年9月に生物多様性条約事務局に提出した見解を支持し、以下のように提言した。提言内容は、以下の(1) デジタル配列情報の利用は生物多様性条約及び名古屋議定書の枠組みに含めるべきでない(2) デジタル配列情報の公表や利用に制限を加えるべきではない。(3) 遺伝資源へのアクセス体制の整備が優先されるべきである(4) 世界中の科学者は議論に加わるべきである、と提言。生物多様性条約事務局のHPに掲載された。
4. AHTEGにおけるDSIの討論6)
DSIについての意見について統一した見解は得られていないが、DSIについての分類について、報告。以下、「DSIに「デジタルシーケンス情報」 という用語は、CBDの議論で使用されているが、様々な利害関係者によって解釈されている。定義はきまっていない、またDSIという言葉自体が不適切である意見が多い。a) 全ゲノムからDNAの 「バーコード」 までの核酸配列データ、および既知の機能を持ち、機能を持たない配列。シーケンスの最小サイズは考慮されていません。b) ゲノムエレメントの構造的注釈。c) ゲノム領域の機能的注釈。d) 遺伝子発現によってつくられるタンパク質のアミノ酸配列(すなわち、デリバティブ);e) 遺伝子産物とその誘導体(細胞代謝物等)の分子構造。f) コンテキスト情報(産地;環境の生態学的関係や非生物的要因に関する情報;行動データ;形態学的データと表現型;分類学)。」と分類された。
5. COP14 において7)
遺伝資源のデジタル配列情報の問題は、第十四回締約国会議(COP14)と第三回締約国会議(COP-MOP3)で検討され、それぞれCOP決定14/20とCOP-MOP決定NP-3/ 12を採択した。
決定14/20では、2019~2020年の会期間におけるこのトピックに関するさらなる研究のために、遺伝資源のデジタル配列情報に関する科学および政策に基づくプロセスを確立した。このプロセスには、特別な技術専門家グループ(AHTEG)による作業と同様に、見解と情報の提出、試験の委託とピアレビューが含まれる。
6. 各国および各団体の提出意見(一部)8)
1)日本
DSIの用語に代わり、用語として、「遺伝子配列データ」(Genetic Sequence Data)を最も適切であると考える
GSDという用語は科学界で広く使われており、科学的な妥当性がある。また、GSDは、世界保健機関(WHO)に設けられたパンデミックインフルエンザプラットフォーム(PIP)でも使用される。GDSDはDNAやRNAの分子であり遺伝情報を含んでおり
生物またはウイルスの生物学的特性を示す。日本は、DSI/GSDへのオープンアクセスは利益配分の一形態であると考えている。
2) EU
EUは科学的アプローチの重要性を強調し、WHOが使用しているgenetic sequence data GDS)の利用を強調。DISは遺伝資源と同一ではない。CBDと名古屋議定書の枠組みに入ると考えられるが、遺伝資源のアクセスとは同一ではない。公開されているデーターベースを含めDSIのアクセスにはPICは必要とすることはできなく、するべきでない、遺伝資源のアクセス時のMATで特定すべきであると主張。さらに、DSIは生物多様性の保全と持続的な利用に重要である、シーケンスデータは分類学的研究など研究活動の基礎となっている、DSIはヒト、動物、植物の健康にとっても非常に大事であり、公衆衛生、食品の安全性などに役に立っておりこれらも非金銭的な利益配分の一形態である、公的またはオープンアクセスのデータベースは公的資金とデータによって維持されている、これらのデータベースに掲載されているのは、研究者が自由に共有できるようにした研究の成果です。DSIを含む情報。 これを念頭に置いて、公共のデータベースとそのデータへのオープンアクセスは非金銭的な利益共有の一形態であり、公正かつ衡平な利益共有に貢献することを主張した。
3) アフリカ連合
アフリカ連合は、以下の主張を行っている。用語に議論の焦点を当てることは適用範囲を狭め、役に立たない、技術革新で短時間で時代遅れになるからである。一方、自然情報や遺伝情報のような幅広い用語の使用を支持する。しかし、さらなる議論を行う場合は、用語の分解を提案、「天然に存在する配列をスキャンし、次いで編集された全ゲノムを介して注釈付きまたは単離された機能遺伝子に進み、最終的には特許取得および/またはゲノム編集または他の形態の遺伝子操作に使用できる有用な発見および/または発明に至る。」を提案している。
アフリカ諸国は自国のABS法の変更を開始している。各国はDSIの適用を進めている。能力開発は利益配分の一つでしかなく、金銭的利益の代わりにはならない。驚くべき量の情報が生成されている、商業的利用は遺伝資源があるコミュニティーから利益がなく、得られている。配列データとその派生物は簡単にアクセスできるが、提供者は簡単には利益を得ることができない。生物多様性の損失は続いている」と提言。
4) TWNの提言
エボラウイルスの塩基配列を公的データーベースからの情報でモノクローナル抗体を作成し、医薬品としたことを避難。現在のMTAシステムの限界と提言。登録システムの必要性を提言した。
5) INSDCの提言
DDBJ,NCBI, ENB/EBIで構成されるDNA塩基配列の公的データーベースであるINSDCデータベースは、シーケンスのオープンな共有のために、古くから広く採用されているデータインフラストラクチャを提供します。データへのオープンアクセスは、INSDC運用の中心的な要素であり、政府、機関、科学者の管理下にあります、INSDCデータベースへの提出は、価値を追加し、データコーパス全体から知識を生成する重要な科学的プロセスです。INSDCデータベースの使用は、データ送信データアクセスの両方で、科学プロセスに組み込まれています、INSDCは、生物多様性に関連するアクセスと利益配分を可能にするために必要な、効果的でオープンなデータインフラストラクチャを提供します、と提言している。さらにCBDに関連する配列はかなり重要ですが、データベースのごく一部(ヒトゲノム配列またはモデル生物と比較して)です。
しかしながら、これらの配列は、 CBD、生物学的多様性の保全、およびその構成要素の持続可能な利用に使用されていることを強調した。
III. 考察
DNA配列を含むデジタル配列情報(DSI)について 合成生物学のAHTEGより、再提出されていたが、COP13により再燃し、合成生物学課題より独立した課題となった。
PICなしの移転が起こると懸念点をあげ、公的データーベースからの遺伝資源合成などをあげている。
途上国側は遺伝資源のDS利用から出た利益の原産国や地域への直接的な利益配分をもとめ、デジタル配列情報のデーターベースの商業用利用を明確にするために、トレーサビリティーを求めている。新しい意見としては、愛知目標の次の目標である、ポスト2020枠組みにDSIのABSシステムの作成を加えることを主張している、これにより、DSIを利益配分の対象とする作業を公式に認めようとしている。また、非営利の目的の簡素なアクセス方法を主張する途上国もあるが、現在、データーベースの商業利用の明確化として課金制度、トレーサービリティーをセットで要求される可能性があるので注意するべきである。
本稿では、生物多様性締約国会議を中心にDSIをめぐる国際的な議論についてまとめた。今後の重要点として、1)DSIの作業用定義の明確化前に議論を進めることは意味がないこと、2)DNA塩基配列のフリーアクセスの重要性や、他の遺伝資源関連の情報のオープンアクセスの重要性とABSとの両立の困難さ、3)登録制度や国際規制が生物多様性条約の3つの目的を阻害することなどの継続的な主張が必要である。
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