リテイルでニブを見比べて万年筆を選ぶ
ニブを確認するポイント
1. ニブを真上から見て、スリット幅が先端に向けて並行かやや狭くなっているか
ニブの中心にある穴 (breather hole、vent holeと呼ばれる) から先端に向けて走るスリットは、たぶんニブの中でも書き味に関係する大切な部分のひとつ。
このスリット幅がbreather holeから先端まで同じ幅、つまりスリット両側の歯 (tines と呼ばれる) が並行伸びているのがよい。先端に向かうほどやや閉じる形も大丈夫。
スリット幅が先端に向かって広くなっていると、インクが出にくくなる。
2. ニブを正面から見て、先端の紙にあたる部分が一山型になっているか
ニブ先端を正面から見て、紙にあたる側の形状が滑らかな、ひと山型になっていればベスト。
この形状が二山型だと、インクが出にくくなる。
この二山型のニブ先端のことを、英語圏の人には baby's bottom と呼ばれ、書き心地の悪さにつながる象徴のように扱われている。
3. ニブを正面から見て、先端の左右が揃っているか
上述したように、ニブ先端のスリットで左右に分けられた2つの歯の部分は tines と呼ばれる。
正面から見て、左右の tines が上下に食い違わず、とくに紙にあたる部分がきれいに揃っているのがベスト。
左右の tines が食い違っていると、下にでっぱっている側の tine が紙にひっかかり、いわゆるニブ先端のカリカリ感を生み出す。
4. ニブを真横から見て、フィードとぴったりくっついているか
ニブを裏側から支える構造物は、フィードと呼ばれる。
このフィードとニブのあいだに隙間があると、インクが出にくくなる。
以上4つすべての条件を満たしているニブであれば、ウェットで滑らかなニブである可能性が高い。このうち3と4は、購入後割とかんたんに自分で調整できる。2の baby tooth を直すのはたぶんやや難しい。何段階かの目の細かさのちがうメッシュを使ってニブの先端を削るのを動画で見たことはあるが、今のところ自分で試したことがない。
こうしたニブの調整をすると、その製品を保証外とするメーカーも多い。だから、自分でニブを調整するときは、仮に失敗しちゃっても自分の責任になる (再調整をメーカーに頼むときは、その費用を払う) 可能性があることを忘れずに。
安価な (でも本格的な) スティールニブの大きな長所として、万が一ハズレを買ってしまっても、気楽に自分で調整できること、調整に失敗しても1500円ほどで別のニブに交換できる点がある。これがニブだけで1ー2万円するゴールドニブだと、心のダメージも大きいのではないかと予想している。
そして、ニブを選ぶ目や調整の腕前、それを支える知識を育ててから、自分が興味をもつメーカーのゴールドニブや他の高価な素材のニブにチャレンジするのも、これまた楽しいかもしれない。
高級メーカーの万年筆を買ったけど、ニブがハズレだったという書き込みを、たまに見かけることがある。そういう時に、自分で自信をもって対処できたら、きっとほんの少し幸せだろう。
試し書き
ニブを見比べて2つくらいにしぼったペンを試し書きすると、実際に書ける線の太さ、ニブ先端の形がつくる微妙なクセ、指先の力の入れ具合へのニブの反応のちがいなどが、よく分かる。伊東屋や丸善のような大手文房具店、書斎館のような万年筆専門店であれば、ボトルインクにニブを浸けて、試し書きできる。この浸けペン試し書きだと、ニブとフィードのインク流れの良さは分からないことは、要注意。 できれば、いつも使いたいノートや紙を持って行って、その紙の上で試し書きする方がいい。お店の人がそばで見ていることが多いので、最初はちょっと照れるし緊張するけど、できれば1ページから見開き2ページくらい、ゆっくり自分の字や線をひととおり、いや2回くらい繰り返して書く。
書くセンテンスや文字などを決めておくと、気楽に楽しく試せる。ぼくは大体、このページの真ん中あたりにある試し書き writing sample と同じようなことを書く。できればいつもよりも早く、荒っぽく。 注意
以上の説明は、どれもぼくの個人的な経験に基づいて書いたものです。できるだけ勘違いが入らないよう努力していますが、まちがいも混ざってる可能性があることを、ご了承ください。