未来
最初に父が、息子の手を引いて興奮しながら、エド、この子には剣の才があるぞ!と言った時、ヒューはまだ5歳だった。
3つの時までひどい喘息持ちで、よく熱を出しており、母親に似て体質が虚弱なのだろうと主治医に絶対安静を言い渡され、日の元へ連れ出したこともなかった。色素の薄い白い髪や肌を真綿で包むようにして、アデルハイドがつきっきりで世話をしていたから、自然母親によく懐いて、数えるほどしか抱いたことがない。
5歳の誕生日の直前に、久しぶりに父が長い旅から帰るなり外へ連れ出して、剣の才がある!などと言った時、正直憤った。我々がどれほどこの小さな妖精を慎重に扱ってきたのか、知りもしないで、当代随一と謳われた剣術狂いの父は、嬉しそうに息子に武勇伝を語っている。肝心のヒューはといえば、殆ど喋ったこともなかった、凍りついた私の顔色をこっそり伺いながら、頬を紅潮させていた。
「父上。ヒューは体が弱くて、鍛錬はまだ無理です。5歳ですよ」
「呆れるな。鍛錬しなければ丈夫にならないに決まっているだろう。私がお前に剣をもたせたのは生後10ヶ月だ」
「またそんな…」
「この子は目がいい。それにバランス感覚がある。もしかしたら私より強くなるぞ」
結論から言えば、父の言は、嫌になる程正確に当たっていた。動体視力が恐ろしく良くて、軽業師にでもなれそうなくらいバランス感覚が優れており、剣を愛し、自分の一部であるかのように扱った。年上の道場の弟子をどんどん打ち負かして、ついに本気で相手してやれるのが自分だけになった時、ヒューは17歳だった。我が息子ながら末恐ろしく感じたのを覚えている。背はそれほど高くならなかったし、筋力もつかなかったけれど、何か別の生き物かと思うほどしなやかに動く。母親によく似た美しい顔を綻ばせて、父上にはやっぱり敵わない、と言った。剣技大会に出たい、と神妙な面持ちで話をされた時、反対するわけもなかった。初出場で初優勝して壇上に上がる背中、照れ臭そうに前を向いた顔つきを誇らしく感じたものだ。
アスタロトの次の器に選ばれたと知らせが入ったのは、滝のような雨の降る薄暗い日だった。