パーカー事件
大阪地裁 昭和43(ワ)7003 昭和45年02月27日判決
「 商標法は、その第一条において、「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」と規定している。商標は、ある特定の営業主体の営業にかかる商品を表彰し、その出所の同一性を識別する作用を営むと共に、同一商標の附された商品の品位及び性質の同等性を保証する作用を営むものであり、商標法が商標権者に登録商標使用の独占的権利を与えているのは、第三者のなす指定商品又は類似商品についての同一又は類似商標の使用により当該登録商標の営む出所表示作用及び品質保証作用が阻害されるのを防止するにあるものと解される。商標法は、商標の出所識別及び品質保証の各機能を保護することを通じて、当該商標の使用により築き上げられた商標権者のグツドウイルを保護すると共に、流通秩序を維持し、需要者をして商品の出所の同一性を識別し、購買にあたつて選択を誤ることなく、自己の欲する一定の品質の商品の入手を可能ならしめ、需要者の利益を保護しようとするものである。右にみたように、商標保護の直接の対象は、商標の機能であり、これを保護することによつて窮極的には商標権者の利益のみならず公共の利益をあわせて保護しようとするもので、この点において、商標権は他の工業所有権と比べて極めて社会性、公益性の強い権利であるということができるのであつて登録主義の建前のもとでは、商標権が基本的には私的財産権の性質を有するとしても、その保護範囲は必然的に社会的な制約を受けることを免れないのは勿論であり、商標権属地主義の妥当する範囲も、商標保護の精神に照らし商標の機能に対する侵害の有無を重視して合理的に決定しなければならない。」
「前述のように原告の輸入販売しようとするパーカー社の製品と被告の輸入販売するパーカー社の製品とは全く同一であつて、その間に品質上些かの差異もない以上、「PARKER」の商標の附された指定商品が原告によつて輸入販売されても、需要者に商品の出所品質について誤認混同を生ぜしめる危険は全く生じないのであつて、右商標の果す機能は少しも害されることがないというべきである。このように、右商標を附した商品に対する需要者の信頼が裏切られるおそれがないとすれば、少なくとも需要者の保護に欠けるところはないのみならず、商標権者たるパーカー社の業務上の信用その他営業上の利益も損なわれないことは自明であろう。」
「したがつて、原告のなす真正パーカー商品の輸入販売によつて、被告は内国市場の独占的支配を脅かされることはあつても、パーカー社の業務上の信用が損なわれることがない以上、被告の業務上の信用もまた損なわれないものというべく、むしろ、第三者による真正商品の輸入を認めるときは、国内における価格及びサービス等に関する公正な自由競争が生じ、需要者に利益がもたらせられることが考えられるほか、国際貿易が促進され、産業の発達が刺激されるという積極的利点があり、却つて商標法の目的にも適合する結果を生ずるのである。」
「 以上検討したところを綜合して考察すると、原告のなす真正パーカー製品の輸入販売の行為は商標制度の趣旨目的に違背するものとは解せられず、被告の内国市場の独占的支配が脅かされるとの一事はこれをもつて原告の輸入販売行為を禁止すべき商標法上の実質的理由とはなし難い。畢竟、原告は形式的には本件登録商標につきなんらの使用の権限を有しないものであるが、同人のなす本件真正パーカー製品の輸入販売の行為は、商標保護の本質に照らし実質的には違法性を欠き、権利侵害を構成しないものというべきである。」