インクボトル事件
東京高裁 平成15(ネ)899 平成16年08月31日判決 商標権侵害差止等請求控訴事件
「被控訴人らが,本件登録商標が付された空インクボトルに被控訴人インクを充填して販売する行為を行っていることは,当事者間に争いがないところ,かかる行為が形式的には「商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡(す)行為」(商標法2条3項2号)に該当することは明らかである。しかしながら,商標の本質は,自他商品の出所を識別するための標識として機能することにあると解されるから,被控訴人らの行為が,本件登録商標の「使用」に該当し,本件商標権を侵害するというためには,当該商標が商品の取引において出所識別機能を果たしていることが必要となるというべきである。そこで,以下,この観点から検討する。
上記認定事実によれば,
①被控訴人らは,顧客から使用済みの空インクボトルの引渡しを受けて,同形のインクボトル(引渡しを受けた当該インクボトルに限らない。)に被控訴人インクを充填して販売する態様の行為のみならず,顧客が空インクボトルを提供することを前提とせず,空インクボトルに充填された被控訴人インクを販売する態様の行為をも行っており,
②被控訴人コロナは,同拓研及び多数の地域特約店を通じて,約1500もの顧客(販売先)と取引をしており,その取引規模は,個人的な小規模取引のようなものとは全く異なる大規模なものであり,
③被控訴人らが被控訴人インクの販売の際に使用するパンフレット,注文書等には,控訴人印刷機やこれに対応したインクカートリッジの名称がそのまま使用されている反面,上記パンフレットには,「被控訴人インクが控訴人と無関係に製造されたものである」旨のいわゆる打ち消し表示もされておらず,むしろ被控訴人インクが控訴人の純正インクであるかの如き誤解を招く記載もあり,
④被控訴人らが顧客に納品する,被控訴人インクの充填されたインクボトルにも,本件登録商標が付されたままであり,いわゆる打ち消し表示もされておらず,
⑤被控訴人らの顧客において,実際にインクを使用する者のみならず,購買担当者も,被控訴人インクが控訴人とは無関係に製造されたものである点について正確な理解をしていない事例があり,
⑥孔版印刷用インクについては,購入後に再譲渡されることも一般に行われている,というのである。
これらの事情によれば,被控訴人らの被控訴人インクの販売行為が,市場における取引者,需要者の間に,「本件登録商標が付されたインクボトルに充填されたインクが控訴人を出所とするものである」との誤認混同のおそれを生じさせていることは明らかであるから,本件登録商標は,商品(インク)の取引において出所識別機能を果たしているものであって,被控訴人らの行為は,実質的にも本件登録商標の「使用」に該当し,本件商標権を侵害するものというべきである。」