つつみのおひなっこや事件
最高裁平成19(行ヒ)223 平成20年9月8日第二小法廷判決
審決取消請求事件
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事件の背景
仙台市堤町(現仙台市青葉区堤町)で製造される土人形は,江戸時代の堤焼に始まり,「おひなっこ」,「つつみのおひなっこ」とも呼ばれていたが,昭和初期に入ってからは「堤人形」と呼がれるようになった。上記土人形(以下,仙台 市堤町で製造される堤焼の人形を「堤人形」という。)を製造する人形屋は,かつては13軒を数えるほどの全盛期を迎えて明治に至ったが,次第に廃業が目立つよ うになり,大正期にはA家及びB家の2軒だけとなった。そして,昭和期には被上告人の父Cだけが堤人形を製造するようになり,その技術は被上告人に承継された。
上告人の祖父Dは,遅くとも昭和56年には堤人形を製造するようになり,その技術は,上告人の父Eを経て上告人に承継された。
特許庁での無効審判
被上告人は,平成18年3月8日,本件商標登録が法4条1項8号,10 号,11号,15号,16号,19号及び8条の規定に違反してされたものであるとして,法46条1項に基づき,本件商標登録を無効とすることについて審判を請求した。
上記審判請求につき,特許庁において無効2006-89030号事件として審理された結果,同年10月31日,本件商標は引用各商標のいずれにも類似しないから法4条1項11号に該当せず,被上告人の主張するその余の無効理由も認められないとして,審判請求を不成立とする審決がされた。
審決取り消し訴訟の原審(高裁判決)概要
審決当時,堤人形は,仙台市堤町で製造される堤焼の人形として, 取引者にはよく知られていた。
「おひなっこや」=「ひな人形」である「おひな」+,方言の接尾語「こ」+職業等を表す語「や」
,地名,人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念+「ひな人形屋」の観念=「堤」という土地,人物の「ひな人形屋」あるいは堤人形の「ひな人形屋」との観念
本件商標は,「つつみ」と「おひなっこや」の結合商標で、一体性があるものと認められない
冒頭の「つつみ」の文字部分のみが分離して認識され,・・「堤」の観念とともに,「ツツミ」のみの称呼をも生じる。
他方,引用各商標からは,いずれも地名,人名としての「堤」ないし堤人形の 「堤」の観念を生じるとともに,「ツツミ」の称呼を生じる。
そうすると,本件商標と引用商標1がその外観の一部において類似するにすぎないこと,本件商標と引用商標2がその外観において類似するものとはいえないこと を考慮しても,本件商標と引用各商標は全体として類似する商標であると認められるから,本件商標は引用各商標との間で法4条1項11号に該当するものというべきである。
最高裁の判断
「本件商標の構成中には,称呼については引用
各商標と同じである「つつみ」という文字部分が含まれているが,本件商標は,
「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり,各文字
の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表され
ているものであるから,「つつみ」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひく
ように構成されているということはできない。また,前記事実関係によれば,引用
各商標は平成3年に商標登録されたものであるが,上告人の祖父は遅くとも昭和5
6年には堤人形を製造するようになったというのであるから,本件指定商品の販売
業者等の取引者には本件審決当時,堤人形は仙台市堤町で製造される堤焼の人形と
してよく知られており,本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分から地名,人名
としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念が生じるとしても,本件審決当時,そ
れを超えて,上記「つつみ」の文字部分が,本件指定商品の取引者や需要者に対し
引用各商標の商標権者である被上告人が本件指定商品の出所である旨を示す識別標
識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできず,他にこのよ
うにいえるだけの原審認定事実は存しない。さらに,本件商標の構成中の「おひな
っこや」の文字部分については,これに接した全国の本件指定商品の取引者,需要
者は,ひな人形ないしそれに関係する物品の製造,販売等を営む者を表す言葉と受
け取るとしても,「ひな人形屋」を表すものとして一般に用いられている言葉では
ないから,新たに造られた言葉として理解するのが通常であると考えられる。そう
すると,上記部分は,土人形等に密接に関連する一般的,普遍的な文字であるとは
いえず,自他商品を識別する機能がないということはできない。
このほか,本件商標について,その構成中の「つつみ」の文字部分を取り出して
観察することを正当化するような事情を見いだすことはできないから,本件商標と
引用各商標の類否を判断するに当たっては,その構成部分全体を対比するのが相当
であり,本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分だけを引用各商標と比較して本
件商標と引用各商標の類否を判断することは許されないというべきである。
(3) そして,前記事実関係によれば,本件商標と引用各商標は,本件商標を構
成する10文字中3文字において共通性を見いだし得るにすぎず,その外観,称呼
において異なるものであることは明らかであるから,いずれの商標からも堤人形に
関係するものという観念が生じ得るとしても,全体として類似する商標であるとい
うことはできない。」