御椀、秋の山のごちそう
秋になると、新吉の楽しみはまたふえた。赤いおわんにはいってくる食べものが、いちだんとおいしくなるからだ。おわんの中からは、くる日もくる日も秋の山のおいしい食べものがでてくる。きのこなら、しめじに、なめこに、くりたけ。ときには、まつたけのむしものなんかがはいっていて、びっくりすることもある。そうかと思うと、とうふのくるみあえが白くこんもりと盛られていたり、菊の花のおひたしが色あざやかにはいっていたり、栗の甘煮が、黄色くつややかに盛られていたりする。そのたびに新吉は、おわんというのはなんとあたたかくていい食器だろうかと思うのだった。そのおわんはなにを入れても美しく見えた。 
『ききょうの娘』 安房直子
花のにおう町 https://honto.jp/netstore/pd-book_02545412.html 所収