ゼロからわかる新卒エンジニア採用マニュアル
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第1章
あらゆる産業での IT/DX 化が進む中で SWE の需要が高まっているが、供給が追いついていない。日本旧来の考え方でアウトソースをしてきたが、これでは事業や組織の DX 化に対応できず遅れを取っていく
インターネットの誕生以来 IT は今や生活の基盤であり、あらゆるサービスが情報技術の上に成り立つ。それを実現するのはソフトウェアエンジニアに他ならない。日本政府も IT 施策に力を入れてきた。世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画 が 2019/6 に発令されたり、新型コロナウイルスを受けて 2020/7 には計画が変更されており、より重要なものとして位置づけられている しかし日本では世界の主要国の中でも IT 産業に IT 人材が集中しすぎている。これが SIer へのアウトソーシングや業務委託による確保(構造的に issue ではなく task に向き合わせる)にも繋がっている。企業の中枢機能をアウトソーシングしないのと同じで、企業にとっての必要な要素であるエンジニアリングを重要な人材として抱えることこそ企業の課題にシステム目線で長期的に向き合う上で肝要であり、国のデジタル化が遅れてきた背景そのものである
中途ではなく新卒を採用して育成すべきなのは、ひとえに採用ハードルの低さ。日本の就業者数は 6000 万人だが、そのうち SWE は 1% 程度。一方企業の需要は増え続けており 2018 年時点で 100 万人で 20 万人のギャップがあり、需要が増え続ける結果 2030 年時点では 80 万人の SWE 不足が見込まれる。経験豊富な中途の SWE を確保したいのは山々だが、市場にいる数が少ない。新卒は毎年決まった時期に企業が採用活動をはじめるので、戦略を立てやすい。また、昨今の新卒 SWE のレベルは高まっており、下手な社会人 SWE よりレベルが高い。とはいえ楽々採用できるわけではない、待遇はどんどん向上している。際して、日本で一般化されてきた総合職の給与体系とは別枠になっており、ジョブ型が進んでいるし総合職として採用するのは悪手である
IT エンジニアが所属する領域はいくつかあるが、企業が採用したいのは高度 IT エンジニアであり、自ら考えて自らモノを創ることができる人材である。単に言われたことをやってもらうだけであれば業務委託と変わらない。事業課題がどこにあり、どのように解決すべきかを思考して取り組めるエンジニアであるべきだ。これまで多くの企業が情報系を選考していない学生も SWE として働いてもらうためのアプローチを取ってきたが、これは効率的ではない。大学や高専などで CS を専攻してきた学生にアプローチするのが得策である。就職活動を行う学生は毎年 45 万人だが、情報系専攻の学生は 2 万人で 4%、主体的に考えて創造的に働ける人材は、著者の経験からいえば 10% 程度である。つまり 2000 人を取り合う構図になるため、雑な母集団形成は得策ではなく、SWE の素養を持った人が集まる場を見定めて見合った採用活動を行うことが重要である
母集団形成を考えると情報系以外にもアプローチしたほうがいいのではという疑問もあるが、はじめから IT に興味を持ち情報学を専攻してきた学生にアプローチするほうがミスマッチは少ない。そんな中でも技術レベルに差はあり、即戦力、制作物あり、授業+α、授業のみ、に分類される。前者 3 つを一定の技術力を持っているグループだとすると、わずか 20% の 4000 人ということになる。そしてその上位からメガベンチャーや中堅ベンチャー、SIer などに就職していく。超上位層でなくても学生の成長ポテンシャルを適切に見抜き、入社までに時間をかけて成長させることも可能だ
即戦力グループは入社後即戦力になるグループで、学生時代からインターンをしながらプログラミングを経験し、システム開発に関わっている。このシステム開発は、自分で思いついたソフトウェア開発ではなく、使い手がいるシステムを開発することであり、できあがったものを改善する PDCA を経験があること。そういった人材は専攻がプログラミングであることが多く、趣味になってしまっているケースが多い。そうした学生は遊び感覚で学び続けて圧倒的な技術力を身に着けていたりする。そうした意欲ある学生を受け入れるには、早く接触することが大切でインターンとして受け入れてそのまま入社してもらうのが良い
即戦力グループではなくともポテンシャルを開花させる余地があるのは制作物ありグループである。制作物ありグループも改善の PDCA を実行しているが、ユーザーに向けたモノづくりは行っていない。普通の学生生活を送ってきたが、大学の授業などのふとした拍子にシステム開発に触れて、モノづくりの喜びに目覚めた人たちである。この制作物ありグループは即戦力グループに迫るほどのポテンシャルを秘めているかもしれない。このグループに早期接触し、インターンシップに参加してもらう中で自社の良さに触れてもらい、関係性を築くことだ
授業+αグループは制作物を作ったことがあるが改善の開発をしてこなかったグループであり、もったいない。故に、即戦力グループや制作物ありグループと比べると、企業は狙いやすい。アピールできるものが少なく就職活動でも苦戦を強いられるグループなのだ。ただし、モノづくりの面白さに触れられる環境を提供すれば開眼する可能性を大いに秘めており、これまで SWE の採用に乗り出していなかった企業もアプローチしやすいことは覚えておくべきである。ハッカソンに参加させたり、長期インターンを通じて成果を出してもらおう
授業のみグループは圧倒的大多数で、プログラミングの経験も乏しくスキルを伸ばす機会にも恵まれない傾向にある。全員が有望とは言わないまでも本人のモチベーション次第では大きな成長を期待でき、何より母集団の大きさを考えれば最も狙いやすいグループなのである。また、先の日本の IT 人材不足を考えればこの SWE 予備軍をどのようにステップアップさせるかが鍵である
グルーピングは経験と技術力が全てのように聞こえるが、もう一つ「志向性(個々が大切にしているスタンスや価値観)」が大切である。大きく「ユーザー志向」と「アカデミック志向」に分類できる。この志向性をよく理解し、企業の期待値と本人の期待値をマッチさせることがより良く業務に取り組んでもらう上で重要なのだ。だからこそ、採用担当者はこの「志向性」を正確に見極めなくてはならない。技術力と志向性の両方が大切である
ユーザー志向は「自分で考えてモノを創る」ことがモチベーション、それを問うにはシンプルに「なぜこれを作ったのか?」という質問を投げかけることだ。先程の技術レベルに応じた 4 つのグループと合わせると、授業+αグループかつユーザー志向の学生を採用しやすいということになる。もちろん、即戦力グループや制作物ありグループかつユーザー志向を採用できれば願ったり叶ったりだが、企業の魅力が伴っている必要もある
アカデミック志向は「難しいことを解決する」のがモチベーションで、知的好奇心と技術力を武器にしているが、世の中を直したり社会に出て働くことに興味がない場合もあるので、就活市場には出現しないこともある。見極めには同じく「なぜそれ(システム)を作ったのか?」を投げかける
ユーザー志向の学生にはサービスを開発する企業があうかもしれないし、アカデミック志向の学生にはビジネスモデルが完成していたり組織としての研究テーマがある企業があうかもしれない
新型コロナウイルスによってリモートワークが進み、学びのスタイルも変化したことで、プログラミングに取り組む人が増えたようだ。これによって授業+αグループが増えた
第2章
新卒エンジニアを採用するには、採用担当者だけではなく経営陣や一緒に働く SWE の協力が欠かせない。ぶつかる壁は、役割分担と採用手法だ。役割分担に関しては採用担当者が「自分がやらなくては」という考えがちだが、むしろ経営陣が SWE の理解を示したり一緒に働く仲間の声を届けることが必要である。採用手法はターゲットの曖昧さと自社のアピールポイントを絞れていないことに起因する。採用担当者はボランチであれ
新卒エンジニアを採用するには社内に SWE の必要性を理解してもらうことがはじめのステップ。だが、現場のエンジニアはここまで話したような事情をわからない。経営トップの意思決定として社内にメッセージを発信することが最も説得力のある方法である
次に新卒エンジニアを採用するプロジェクトやチームをつくること。開発現場のキーパーソンを巻き込み、採用活動に協力的である人や新卒で採用されて活躍している人を含めていくと学生への説得力も高まる。あとは発信力が高い人がいると尚良い
ステップ3では、社内の人と採用のための目線合わせを行う。開発現場として求めるポジションがどこなのかをできる限り明らかにすることち、採用後の育成を含めた受け入れをしっかり設計することだ。領域は主にインフラとバックエンドとフロントエンドに分類される
ここまでを踏まえて自社の状況に合わせた適切な採用手法を選ぶ。総合職であればマイナビやリクナビといったメディアに求人情報を掲載したり、合同説明会に参加するなどがあったが、よりジョブ型が進んでいる SWE は方法が異なる。1on1 イベントを実施したり、スカウトメディアでアプローチしたり、エージェントに紹介してもらうなど、手法はあるが、何にせよ採用したい人材像を明らかにし、適切な手法を選ぶことが大切。上位層を 2-3 人採用したいなら 1on1 イベントだし、10 人以上採用したいならスカウトメディアだし、採用担当者だけで進めたいなら人材紹介サービスだろう
1on1 イベントは企業と学生があつまり相互でプレゼンしてマッチングする、これは企業が欲しい人材が集まりやすい形態である。なぜならばイベントの参加条件に、成果物や経験などを含めたプレゼンを要求するので、企業からの期待値にあった選別が行われるからだ
内定承諾後はケアを続けて人間関係を構築し、学生の技術力をあげよう。インターンシップとして受け入れたり、勉強会に招いたり、面談や懇親会を開催するなどだ。エンジニアカルチャーを伝えてコミュニケーションの中で安心感を醸成することで、社会人としての人間性を育てながら受け入れていこう
新卒採用は卒業の2年前から就職活動がはじまる、これはいわゆる総合職より数ヶ月早いことになる。大学生であれば三年生のときに内定をもらうスケジュールであり、これらの採用市場のスケジュールと採用ターゲットに合わせて戦略的に計画していく必要がある
採用担当者に求められるのは、技術力の伸びしろを見抜くこと。それには学生時代にやってきたことを具体的に語れるかであったり、主体的に行動してきたかをチェックすることだ。今の技術力を完璧に見抜けなくとも、まだまだ先の長い学生にとってはそのポテンシャルのほうが重要なのである。論理的思考能力、知的好奇心、コミュニケーション能力、素直さ。採用の決定打はとにかくスピード。頻度を高めてコミュニケーションを密に行うことで採用の成功率は高まる。欲しい学生はとにかく手厚く丁寧に。
総合職の採用(=メンバーシップ型の採用)はいわゆる確率論の採用だが、SWE のような専門人材の採用(=ジョブ型)はピンポイントの採用である。先の 1on1 イベントに参加するには 50-100 万円、その時の採用単価は 100-200 万円ということになり、当然ながら総合職の採用単価とは大きく異なる。つまり、相応の予算を確保しないと採用できない。SWE を確保する価値を、会社としてよく理解しなくてはならない。学歴での採用は確率論、ミスマッチを防ぐためにも学生の経験や能力をちゃんと見ること。知名度がない大学にも優秀な学生が在籍していることはザラであるし、理系学生でなくても丁寧にチェックしてあげるべき。入社後は裁量を与えて主体的に動けるようにして、成長を促す
第3章
アピールポイントの数で採用できる人材が決まる、まずは自社の強みをよく理解して整理する。エンジニアが関わる事業内容、技術力、エンジニアファーストの社風、教育やキャリアパスの充実、仕事環境や福利厚生、給与などがある。募集要項ではエンジニア職に特化したものを作ること。適切に SWE を SWE として待遇することを示す必要があるからだ。エンジニアブログで開発現場などの様子を伝えることも理解を促す上で効果的である。必ずしも開発の話ではなく、勉強会のことでもいいし、他の職種のことでもいい。とにかく親近感を覚えてもらうことが大切だし、そのプロセスを通じて社内の理解や協力を得ることそのものも大切なのだ
技術スタックをちゃんと用意する。1on1 イベントの成功には、ちゃんと企業として準備していく。採用担当者がちゃんとグリップしたり、技術的な凄さをしっかり伝えるなどがあるが、最終的にはコミュニケーションしたエンジニアがいい人だったからといったような人間性が鍵になることも多い。結局のところ人間なのだ