正社員雇用の保護とジョブ型採用
序論
日本には長らくメンバーシップ型の雇用が定着してきた。メンバーシップ型の雇用は、その人の能力ではなく学歴を評価し、総合職として採用しジェネラリストとして育ててきた。能力ではなく年功序列でキャリアが左右されるため、1度のポストが埋まると循環が行われない。日本の戦後を支えた産業は現代と比べて著しく単純であり、1つのことを教えて1つのことを素早く高い質で遂行するというメンタルモデルだった。また、1つの会社に勤め上げる風潮によってその生産性を維持できた。結果として戦後の高度経済成長をもたらした。これらが民間企業組織における既得権益構造を助長した。今の日本社会に根差した課題であり、米国の経済成長に大きく水を開けられた
1990 年代にインターネットが黎明期を迎え、急速に産業の複雑化が進む。技術大国と言われた日本も、デジタル化においては自国や既存ビジネスに閉じたそのクローズドな姿勢が、グローバルにおける企業発展を抑止した(SONY の FeLiCa や TOYOTA の EV 投資タイミングがわかりやすい)。日本に求められるのはグローバルを前提とした社会の視座と、既得権益構造の抜本的な脱却である。それに抗う法律的な要素として、正規雇用の雇用保護が存在する。これはキャリアを志す人が能力ではなく学歴に向き合う原因の1つであり、組織および事業が抜本的に発展する際のボトルネックである。対比されるのは、米国やインドのようにレイオフできる環境であり、端的には停滞する人が組織に縋り付くことを合法化している 幸いなことに日本においても、比較的新しいインターネット業界を中心に、転職や副業がごく当たり前になっている。これは将来に対して問を持ち、望ましいキャリアを選び取るために重要かつ自然な行動欲求と言える。Google や Amazon といった Tech Giants が日本市場に進出してきたことも相まって、ソフトウェアエンジニアというロールが、メガベンチャーおよび各種 SaaS スタートアップで一般化した。エンジニアリング能力に当てた雇用はジョブ型そのものであり、総合職で採用しソフトウェアエンジニアリングを事業に組み込むことは、既に難しい。これはソフトウェアエンジニアリングをこれからの産業に必要な専門性として、日本社会が認めたことに他ならない
ソフトウェアエンジニアリングの需要はしばらくの間続くことが見込まれ、事業のインフラストラクチャーがインターネットである限りは失われない。よって日本におけるソフトウェアエンジニアのジョブ型採用は不可逆的に定着していくと同時に、デジタル化の時流に対応できない産業は長い時間をかけて衰退していく。このジョブ型としてのソフトウェアエンジニア採用を、供給である労働する側と需要である雇用する側の両方に普及させていくことが、日本の産業および組織の新陳代謝を促す上で肝要である
ジョブ型に向けては高い難易度の入学試験を突破することにフォーカスするのではなく、より早期にキャリアを想像してそのギャップを埋めるための教育も選択できること。士業や各種専門学校で専門教育が提供されている職種は、事実上のジョブ型になっているが、能力を評価するのであれば、高等学校教育中にインターンシップなどを通じて働く機会を獲得し、学ぶ志のない大学4年間の時間を無駄にすることなく就職するキャリアも自然な選択肢だろう。これは日本の GDP を改善するだけでなく、過度な私学助成金を削減し学術的成果を生む教育機関への投資を増やすことに繋がる。そこに向けては企業は学歴の過度な偏重を是正し、能力で評価し機会を提供すること(学歴を排他することが目的ではない)。この取っ掛かりとなるのがソフトウェアエンジニアリング市場である